ヒロイン役を演じる珠城りょうが、ミュージカル『20世紀号に乗って』稽古中の様子を語る!
ミュージカル『20世紀号に乗って』の原作は、1932年にチャールズ・ブルース・ミルホランドが書き下ろした戯曲。1978年にベティ・カムデン、アドルフ・グリーンによる脚本、サイ・コールマンによる音楽で、ブロードウェイでミュージカル化され、トニー賞5部門を制覇した。その後もリバイバル上演され、日本では1990年初演、2019年以来、5年ぶりの上演となる。
演出・振付を務めるのは、ダンサーとしてキャリアをスタートさせ、現在は振付家・演出家として舞台・TV・ファッション・映画の各分野で活躍するクリス・ベイリー。2020・2021年には『ハウ・トゥー・サクシード』の演出・振付を手掛け、同作を新演出で鮮やかに蘇らせた。近年の主な作品には、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』(振付/ウェストエンド、ブロードウェイ)などがある。
ヒロイン役のリリー・ガーランドを演じるのは、舞台、ドラマと幅広く活躍中の珠城りょうさん。取材時は、稽古が中盤に入った段階。まさに稽古が進んでいる様子、演じる役柄などについてお話を伺った。
即興の手法を取り入れた、刺激的な稽古場!
今回のクリス・ベイリーさんによる演出は、どのように進められていますか?
クリスさんの演出を受けるのは、私は初めてなのですが、立ち稽古の最初がインプロ(=インプロヴィゼーション「即興」の略語)と呼ばれる手法で進んでいます。「じゃあ、まずやってみようか」という感じで、まず役者が動いてみる、いきなり即興で演じるようなことが私にとっては新鮮でした。その瞬間に出演者の皆さんが感じたままに演じたり、動いたりするのが、とてもリアルです。その中からクリスさんが良いと思ったものを採用して、そこから細かく感情の流れや役の関係性、場面としてどう見えたいかを聞きながら一緒に作り上げています。
役者が表現したいものを出してみると、クリスさんが「Great,great!」とまず肯定してくださることも新鮮でした。最初に即興で演じるのは勇気がいるのと同時に楽しくて面白いと感じる稽古場です。
演じる上で、クリスさんから何かリクエストはありましたか?
作品は、1930年代のアメリカが舞台で、オールドスタイルのミュージカルです。舞台の世界に生きている人たちのお話で、特に主人公のオスカーとリリーは、大芝居が求められています。私が演じるリリー役は、出世してハリウッド映画の女優にまで上り詰める役柄です。
クリスさんから言われているのは、自分たちが語って物語に没頭しているときは大芝居して欲しい、コミカルなやりとりをするスピード感やテンポが大事で、“緩急”が見せ場ということを求められています。
実力派揃いの共演者!
主役のオスカー・ジャフィを演じるのは、増田貴久。ミュージカル『ハウ・トゥー・サクシード』でもタッグを組んだクリスに「ユーモアのセンスたっぷりにキャストを引っ張ってくださり、彼から溢れ出すエネルギーや、作品への向き合い方は大変素晴らしい」と絶賛されている。メインキャストは、ほかオリバー・ウェッブ役に小野田龍之介、オーエン・オマリー役に上川一哉、ブルース・グラニット役に渡辺大輔、レティシア・プリムローズ役に戸田恵子といった役者陣が作品に参加する。(*敬称略)
実力派の共演者が揃う稽古場の様子は、いかがですか?
心臓が、とても鍛えられています(笑)。共演者の方々は、即興でもご自分のアイデアを迷いなく出されるので、非常に刺激的です。凄い熱量をお持ちなので、私もそれだけのものを返さなければ、と稽古場で勉強になります。それに加えて、今回のキャストの皆さんは、どの方も台詞を覚えるのがとても早くて驚かされています!
主演の増田さんは、ユーモアのある優しい方です。増田さんが面白く表現されたものが演出に採用されたこともあります(笑)。真剣に取り組まれる中でも常に楽しむことを忘れない方なので、ちょっとした一言で場の空気が和んだり、クリスさんや皆さんも笑ったり、温かい雰囲気を作ってくださっています。
コメディの演技については、いかがでしょう。
海外の作品なので、原語の言葉そのもので笑いが起きるところが日本語で伝えるとなると、観ている観客の方々にどうしたら伝わるか、クリスさんともお稽古場でもディスカッションをしています。あっちがいいのか、こっちがいいのか、色々と意見を出し合って作りながら進めるのも、とても楽しい時間です。
一緒に演技をするシーンが多い渡辺大輔さんのブルース役(リリーの新しい恋人で映画俳優)がかなりのコメディ担当なので(笑)、それに対する受けの芝居やリアクション、絶妙な間(ま)が求められます。センスが問われるので、思い悩みながらお稽古を重ねています。
エネルギーに満ち溢れ、人間として芯のあるヒロイン、リリー・ガーランド役
珠城さんが演じるリリー・ガーランドは、どのような役柄ですか。
リリーは、エネルギーに満ち溢れている感じが欲しい、とクリスさんに稽古場で言われています。どんな時も自分の意思や意見を持っていて決して引くことがなく、常に前に前にと爆発していきます。オスカーと常に対等であり、感情というものを、しっかり相手にぶつけられる、強いエネルギーを持っている役柄です。その中にどこか憎めない可愛らしい部分もあると感じています。
ただ、コメディ的な作品でも、彼女の人間としての芯の部分であったり、本人の内面で揺らいでいる心情であったり、そういった部分は観客にきちんと伝わって欲しい、と求められています。女優としても一人の女性としても彼女が何に思い悩んでいるのか、どれが真実の言葉かというのはお客様にちゃんと伝わるように演じなければいけない、と考えています。
女優リリー・ガーランドは、本名はミルドレッド・プロツカという一人の人間です。大女優に成長する前の彼女の心の奥底にある強さや真っ直ぐさ、様々な感情の中にオスカーが輝きを見出していくと思うので、そこが核だと思って大切に演じています。
本作品のヒロイン役をオファーされたとき、どう思いましたか。
最初は、びっくりしました。どうして私を選んでくださったのだろうか、その答えを自分でも見つけていきたい、と挑戦を決めました。オファーをお受けするからには、全力で応えたいですし、自分が持っているものをより磨いて何が表現できるだろうか、ということを常に考えて稽古に挑んできました。
当時の雰囲気を彷彿とするドレス姿が、お似合いです。美しい衣裳替えにも期待がかかります!
ありがとうございます。私も今からワクワクしています。
新たな魅力が感じられる、オールドスタイルのブロードウェイ・ミュージカル作品
ブロードウェイ・ミュージカル作品でダンスもあります。稽古場で踊った印象は?
久しぶりにこういうブロードウェイ・ミュージカルの踊りで体を動かし、クリスさんの振付を実際に受けて、ワクワクしました。今回のカンパニーは、増田さんやメインキャストを始め、舞台の場数を踏んで慣れていらっしゃる方ばかりなので、私は安心して入っていけるのと同時に、最初は皆さんのレベルの高さに唖然としてしまいました(笑)。
歌については、いかがでしょう?
今回の舞台は、新演出で作り直している部分がたくさんあります。私のリリー役はキー変更して、本来の私が持っている声が一番フィットするものにアレンジしていただいている箇所もあります。
これまで自分が使っていた音域よりも高いので、私にとっては挑戦です。「いつか」の為にずっとボイストレーニングを続けてきて、稽古に入る前から準備をしていました。練習で出せても、舞台本番でその声域を出すのが初めてなので、何とか自分のものにできるように、寝ても覚めてもずっとそのことばかり考えて取り組んでいます。
ブロードウェイ・ミュージカルは、難解な作りでハーモニーが表現されていて、出来上がると美しい楽曲が多いんです。今回も、やはり非常に難しいのですが、素敵な音楽ばかりです。お稽古でもっと慣れれば、共演者との歌のやりとりも楽しくなってくると思います。何重唱にもなる曲もあるので歌う側は大変ですが、うまくハマると観客の方々にとても楽しんでいただけると思うので、やりがいを感じています。
数々の舞台に、昨年はTBS日曜劇場『VIVANT』のドラマ出演、と活躍中の珠城りょうさん。この2年ほどはシリアスな作品が多く、コメディは久しぶりとのこと。
軽やかな音楽に乗せて、個性豊かな登場人物たちが機知に富んだ駆け引きを繰り広げる、本作品のヒロイン役に注目!
【SNS】 オリジナルコンテンツ公開中。珠城りょうさん取材中の写真をオフィシャルインスタグラムでチェック!
<Information>
ミュージカル『20世紀号に乗って』
脚本・作詞 アドルフ・グリーン/ベティ・カムデン
作曲 サイ・コールマン
原作 ベン・ヘクト/チャールズ・マッカーサー/ブルース・ミルホランド
演出・振付:クリス・ベイリー
演出補・共同振付:ベス・クランドール
出演:増田貴久、珠城りょう、小野田龍之介、上川一哉、渡辺大輔、戸田恵子
可知寛子、斎藤准一郎、武藤寛、横沢健司
植村理乃、小島亜莉沙、坂元宏旬、咲良、篠本りの、田川景一、田口恵那、東間一貴、長澤仙明、MAOTO 増山航平 吉田萌美 米島史子 玲実くれあ
【東京公演】2024年3月12日(火)〜31日(日) 東急シアターオーブ
【大阪公演】2024年4月5日(金)〜10日(水) オリックス劇場
公式サイト https://musical-onthe20th.jp
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。