私の目指すバレエ ー 新国立劇場バレエ団 プリンシパル・キャラクター・アーティスト 本島美和

新国立劇場バレエ研修所の第1期生で、新国立劇場バレエ団には2003年に入団し、プリンシパルにまで登り詰め、現在はプリンシパル・キャラクター・アーティストとして活躍中。実力と演技力を兼ね備え、美しい容姿のみならず類稀なバレエへの情熱で内なるきらめきを放ち、現役のバレリーナとして観る者を魅了する、新国立劇場バレエ団の本島美和さん。彼女が目指すバレエとは? 圧倒的な存在感を見せる「ハートの女王」役を踊る『不思議の国のアリス』の公演をいよいよ間近に控えた、お稽古の合間にインタビューを受けていただいた。


すべてが「バレエ」に。バレエとは、ずっと追い求めるもの

プロのバレエ団で踊るという幼少からの夢をずっと叶え続けていらっしゃる本島さん。舞台での活躍、後進の指導、レオタードを開発するアドバイザリーなど、多方面からバレエへの愛を感じます。「バレエ」とは、本島さんの人生にとって何でしょうか。

私のなかでは、全部がばらばらなものではなく、全部で「バレエ」です。バレエにはいろんな要素があって、関わる人々も各方面の方がいらっしゃいます。すべてがやはり「好き」で、ずっと追い求めているもの。いろんな方面からのバレエへのアプローチは、全部自分がバレエを追い求めるなかの一部分、というイメージを持っています。

追い求める先に、理想のイメージをお持ちなのでしょうか。

昔からバレエをやってきて、自分のルーツにおいて牧阿佐美先生という大きな存在がいらっしゃいます。

本島さんが幼少の頃より師事し、新国立劇場舞踊芸術監督も務められ、日本のバレエ界を牽引された牧阿佐美先生ですね。

阿佐美先生が見せてくださったバレエの世界が私のなかでは追い求めているヴィジョンです。

それは、とてもとても遠くて、偉大すぎて手が届くものではないのですが、やはり自分が小さいときから阿佐美先生が見せてくださった世界に少しでも触れたい、そのようなつもりでいます。

アメリカN.Yで誕生したダンスウエアのパイオニアで知られる、女性のためのアクティブウエアブランド「DANSKIN(ダンスキン)」への協力は、どのような経緯だったのでしょうか。

輸入ではなく日本でDANSKINのレオタードを開発して作りたい、というお話がありまして、プロのダンサーが着るようなレオタードはどんなものか、という相談をまず受けました。じゃあ、こんな風にしたらどうだろう、とお話が進んでいきました。

私も日常、毎日何枚も汗をかいてレオタードを変えるので、耐久性や着心地のよさ、あとはやはり身体が一番美しく見えるようにシンプルなデザインで、レオタードの色も日本人の肌に合わせる、など、そのような切り口でいろいろ考えていきました。

私自身、着ていて気持ちの良い、着心地のいいレオタードが欲しいとも思っていました。華美に飾るのではなく、身体の美しさがバレエにとっては大切であり、シンプルなものに美しさが在ることをもっとアピールしていきたいと思っています。

後進の指導についてはいかがでしょう。踊りに影響はありますか?

指導は、踊るときと脳みそを使う部分が違うと思っています。教えるとなると、素材が「誰か」に変わります。踊るときは「自分」という素材で考えるので、まずそこが違いますが、他人という素材のなかで考える、自分のなかでバレエを考える、どちらも両方ともに役立ち、相互に関係してきます。

『眠れる森の美女』カラボス 撮影:鹿摩隆司

今シーズンよりプリンシパル・キャラクター・アーティストとしてのお気持ち、多彩なキャラクターを舞台で踊るのにあたり心がけていらっしゃることはありますか。

(任命のときは)それまでのプリンシパルのロール(役)は、出番が多く体力や年齢的なものもありますので、少しホッとした部分があったのも事実です。その代わり、また別の責任が出てきたように思います。舞台全体を通して、自分が舞台に出る場面の役割や立場というものを見極めて、必要なことをきちんと客席に伝えていかなければいけないので、そういう意味では別の責任感を感じています。

 

キャラクターの声を聴く

世界を熱狂させ、アジアでは唯一、新国立劇場バレエ団だけが上演を許された人気作『不思議の国のアリス』の公演が、いよいよ開幕します。新国立劇場の2018年初演でも本島さんが踊った、この作品で圧倒的な存在感を見せる「ハートの女王」役が非常に楽しみです。役へのアプローチは、いつもどのようにされていますか?

アプローチは、それぞれの役によるのですが、例えば、今回私が踊る「ハートの女王」役に関していえば、アリスの夢のなかの住人とはいえ、一応、「人」ですよね(笑)、たまに動物もありますから。

バレエは声を出しませんが、どんな声を持っているのだろう、喋り方をするのだろう、ということを考えます。お姫様だったらどんな風に、じゃあ女王だったらどういう喋り方をするのだろう、と。やはり動きが言葉にならなければいけないことがとても多く、そうあるべきだと思っています。例えば他のキャストで、アリスが私に話しかけてくる振りだったら、どんな声で喋っているんだろう、どんな話し方でそれに対して女王はどんな口調で、声で返すのだろう、と会話を自分で想像します。

「ハートの女王」の場合は、「あいつ殺せ!」とか大体がそんな感じで、普段言うことのない物騒な言葉ばかりなのですが(笑)。『不思議の国のアリス』は現実の世界と夢の中の不思議の国と二重構造で展開しますが、女王と二役をやっている「アリスの母」も、「お前はクビよ!」「やめてちょうだい!」などと、ずっと喋っている人間の役なので、多少強弱をつけて、相手をうかがう時間を入れて自分のなかで考えてからスイッチを入れるようにしています。

『不思議の国のアリス』ハートの女王 Alice’s Adventures in Wonderland © by Christopher Wheeldon 撮影:鹿摩隆司

2018年の初演に踊った際は、「料理女」と「ハートの女王」役の両方を踊りました。そのおかげで、いろんな角度からこの作品を見ることができ、本当によく作られている作品だなあ、と思いました。さまざまなキャラクターが、活き活きとこのストーリーの中で生きています。この作品自体が大好きで、一度、中止になった際は本当にがっかりしました。巡りめぐっていま踊れることを考えると、おそらくこの作品に関わるのは年齢的に自分にとっておそらく最後になるだろう、と思っているので、単純に、思いっきり踊りたいです。

今回は「マッドハッター」役に、伝説的オリジナルキャストのスティーヴン・マックレーさん(英国ロイヤルバレエ)、新国立劇場で2018年初演の際にも出演したジャレッド・マドゥンさん(オーストラリア・バレエ)のゲスト出演が決定しています。エキサイティングなニュースですね!

ジャレッドさんは、前回とても素晴らしかったので、またお会いできるのが嬉しいです。スティーヴン・マックレーさんは、DVDで繰り返し拝見していて、何度見ても素晴らしいな、と思っていた方です。だから…彼を実物で見られると思ったら、それだけでドキドキします。共演できる日も1日あるので、本当に楽しみでしかないです。

そして、ご本人が持っているエネルギーや空気感を実際に間近で感じられるのは、とても得るものが大きいと思います。そんな素晴らしいゲストダンサーが来てくれるだけでも、私たちバレエ団全員のモチベーションが爆上がり(笑)しますね!

『不思議の国のアリス』ハートの女王 Alice’s Adventures in Wonderland © by Christopher Wheeldon 撮影:鹿摩隆司

久しぶりに同じ役を踊った感触はいかがでしたか?

「こうだったな」と思い出す部分もありますし、前回出演した際と別のスタッフチームに加わっていただいているので、演技の部分などでニュアンスが違うから面白いと感じています。

お稽古はゴールデンウィーク前からすでにスタートして、日本人のスタッフチームで流れを頭に入れ、現在は英国ロイヤルバレエから1名、オーストラリア・バレエから2名教えにいらっしゃっていただいています。指導する先生方の隣で稽古を見ていらっしゃる芸術監督の吉田都さんも、信頼してお任せしているようです。

英国ロイヤルバレエからは、「白ウサギ」役を踊っていた方が来てくださっています。「タルト・アダージョ」(オーロラ姫が4人の求婚者と踊る「ローズ・アダージョ」を模した、観客も大いに沸くハートの女王役の見せ場)でも、女王が組んで踊るトランプの役を何度も踊られていた方です。指導には言葉で伝える部分もあるけれど、実際にこうだった、と一瞬パッと動いて見せてくれるだけで勉強になり、稽古場なのに本番の装置や衣裳、そこに観客が客席で笑っている様子が見えるような瞬間があります。そのような指導者に教えていただけるのは心からありがたいな、と思っています。

 

ダンサーたちを引っ張る、吉田都 舞踊芸術監督の姿

2021/22シーズンより新国立劇場バレエ団の舞踊芸術監督になられた、吉田都さんの印象はいかがでしょうか?

都さんのディレクター期間が始まってから、ずっとコロナ禍の影響で、演目が無くなったりやりたいと思われていた舞台作品ができなかったりすることが続きました。もちろん練習してきたダンサーも大変残念ですが、監督は劇場を担っている方なので、一番ショックだと思うんです。やりたいことが出来ないというのはすごく辛い大変な思いをしていらっしゃると思うのですが、ずっとそういう状況が続いても、バレエ団員を力強く引っ張ってくださるのを感じました。

ダンサーたちのことを考えてくださっているのがわかるので、本当にありがたかったですし、こういう状況だからああやってみよう、という風に日々アップデートしていろいろ発想を転換してくださるところも素晴らしいと思います。今シーズンは作品変更や公演中止もありました。おそらく、都さんが上演したい演目はたくさんあると思いますので、早くどんどん実現していける状況になればいいな、と思っています。

稽古場に降りていらっしゃるときは、いつでも指導できるような服に着替えていらっしゃって、ここがこうではないよ、と言って教えてくださるときにも、本当にわかりやすく体で伝えようとしてくださいます。そういうところは、ああ、素晴らしい姿勢だなあ、と思って見ています。

『こうもり』ベラ 撮影:鹿摩隆司

 

次の2022/2023次シーズンに向けて

秋から始まる2022/2023次シーズンで、楽しみにしている作品はありますか。

『ジゼル』の新制作は吉田都芸術監督の演出ですし、楽しみですね。イギリスの振付家の作品はシェイクスピアを世に出した演劇の国らしい魅力があると感じています。都さんもイギリスにずっと長くいらっしゃって演劇的な要素も大切にされているのではと思うので、そういった点も感じられるのでは、と今からワクワクしています。

 

本島さん出演の新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』紹介記事 はこちら

 

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
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