「THE SHINMONZEN」京都・祇園に感じる南仏プロヴァンス
京都・祇園にあり、白川を見下ろすスモールラグジュアリーホテル「THE SHINMONZEN」。9室のスイートは、すべてプライベートバルコニーを備え、水の流れやきらめきが感じられ、緑が美しく鳥のさえずりが聴こえる。
「THE SHINMONZEN」は、南仏プロヴァンスのワイナリー「シャトー・ラ・コスト」の中心にある「ヴィラ・ラ・コスト」の姉妹ホテルである。オーナーは、アイルランド人のパディ・マッキレン氏。世界的な伝説のホテリエであるオーナー自身が京都のこの地に魅せられ、深い想いを込めながら10年以上の歳月をかけたプロジェクトだ。
プロヴァンスのワイナリー「シャトー・ラ・コスト」は、広大な敷地に現代アートやギャラリースペースを持ち、アートと自然が共存する場所で、設計に安藤忠雄氏も参加している。そのなかに建つホテル「ヴィラ・ラ・コスト」は草花に囲まれ、プロヴァンスの自然を大事にしながら、芸術的なセンスに満ちている。そして、ゲストは泊まりながら「シャトー・ラ・コスト」のワインと美食を愉しむ。
そんな「ヴィラ・ラ・コスト」の豊かな精神が同じように感じられるのが、ここ京都にある「THE SHINMONZEN」だ。
芸術家の街としても知られ、古美術店が並ぶ新門前通(しんもんぜんどおり)に馴染む和の建築デザインは、安藤忠雄氏によるもの。部屋のインテリアは、フランス出身でグローバルに活躍する人気インテリアデザイナーのレミ・テシエ氏が手がけている。
4階建てのホテル内に飾られているのは、そのほとんどがオーナーの知り合いや友人たちであるアーティスト達の作品のプライベートコレクション。各階と調和するように存在しているが、いずれも凄い作家たちによるものであり、美術館並みの作品群である。アート好きで精通しているゲストは、ホテル内にとどまって、ずっと色々な作品を眺めているそうだ。
訪れるゲストは、自分が感じるままに自由に鑑賞できる。作品は常に変わり、いつ変わるかは、オーナーのコレクション次第だ。ホテルのスタッフも一緒になってアートを追いかけ、情報をキャッチアップするそう。
ラウンジエリアには、ダミアン・ハースト、杉本博司、ゲルハルト・リヒター、ルイーズ・ブルジョワらによる現代アートが飾られている。
右に見える赤い椅子は、実はオーナーのパディ・マッキレン氏自ら、アーティストとして作った作品。各階に色違いで置かれて、アクセントになっている。
Architecture 建築
新しい建物なのに、新門前通に馴染むような町屋風の外観は古都の伝統を守るつくりである。正面から見ると2階建て、横の白川の橋からは本来の4階建ての姿が見える。
「S」の文字は安藤忠雄氏が描き、「黒」と「藍」の絶妙な色合いと透け感は指定されたものである。上の壁の塗りはあえて古く見えるようなエイジング加工をしており、年月と共に風合いがさらに出てきている。
入口を入ると、ホテルに入るまでの長いアプローチが世界観を作る。両側が違うそれぞれ格子とコンクリートの打ちっ放しのデザインは、安藤忠雄氏によるものだ。
Arts アート
アプローチの奥にあるのは、更谷源(さらたに げん)氏の《Butterfly》。蒔絵の手法を使った美しい蝶は、時間とともに光の射し方によって違う表情を見せる。
オーナーが気に入っている能面は、新門前通にある古美術店で購入したもの。かなりのお気に入りで、プロヴァンスの「ヴィラ・ラ・コスト」にも購入してホテルにディスプレイしたそう。
館内を飾る草花は、文久元年より店を開いている老舗花屋の花政(はなまさ)がホテルに来て活けている。
巨大なクモの形をした彫刻のインスタレーション《Maman》「ママン」で知られる、ルイーズ・ブルジョワ。珍しい作風のプライベートコレクションを見ることができる。
モノクロの写真作品は、安藤忠雄氏から飾りきれないほど送られてきた、というオーナーとの親交を表すエピソードもある。
廊下や部屋に飾られている《GEISHA》の写真作品のアーティストは、写真家メアリー・マッカートニー。ポール・マッカートニーの娘で、母親は写真家でもあるリンダ・マッカートニーだ。オーナーとは親しい友人で、「THE SHINMONZEN」が建つときにぜひ展示を、ということだった。芸者のさまざまな瞬間の表情を切り取った写真は、不思議な魅力を放っている。
2階廊下には《LIFE – youth》と題した清川あさみ氏の作品、3階廊下にはホテルオープン当初から飾られている青が印象的な名和晃平(なわ こうへい)氏の作品があり、夫婦で展示されている。
Suites スイート
スイートルームは9部屋あり、プライベートでリラックスできる空間だ。鍵には、オーナーの愛犬エリンの絵が描かれている。
オーナーが買ってきたベトナムのアーティストの作品は、「Do Not Disturb」に使われている。見方によっては、草履の鼻緒のようにも見える。
日常的に自然と共存し、竹、絹、漆、石のような自然のものにも神が宿るという日本古来の考え方を大切に、各部屋は「TAKE」「KINU」「ISHI」「HINOKI」…などの名前が付けられている。
部屋は自然の素材であることに、細部までこだわり抜かれている。
ダブルシンクはピンク色、クリーム色など各色の大理石を9つフランスから輸入し、各部屋に1枚岩の大理石をくり抜いて作られている。
リネンは、プロヴァンスの「ヴィラ・ラ・コスト」と同じものを使っている。ランプも南仏から持ってきており、優しい光で癒される。竹素材のアメニティボックスは、竹工芸の老舗「公長齋小菅(こうちょうさい こすが)」の角型のお弁当箱を、許可をいただいてアメニティ入れに使用しているそう。それに京都の「伊藤組紐店」の組紐を使い、部屋に合わせて、例えば「HINOKI」の部屋なら、木を思わせる飴色のような色をイメージして探してくる。
オーナーの「ここからアーティストが生まれるかもしれない。アートが生まれるときは、紙とペンが必要」という想いから、部屋の机の上には、ペンとロゴ入りの京都の黒谷和紙が置かれている。
部屋は、2階と4階が「洋」、3階が「和」。和室の3室には、京都の老舗寝具メーカーIWATAのツイン布団ベッドを備え、寝心地が抜群だ。
天然素材にこだわり、部屋の床は、むくの木を使っている。
「HINOKI」の部屋にもある360度回転する白く丸いソファは機能とデザイン性に優れ、ベトナムのホーチミンを拠点とする「DISTRICT EIGHT(ディストリクト・エイト)」にオーダーしているものだ。
最上階の「SUISHO」は一番広いスイートで、ゆったりとしたプライベートテラスにはダイニングテーブル、デッキチェアを備えている。
バスルームからテラスにつながっているので、シャワーを浴びた後にゆっくりした時間を過ごして、ダイニングテーブルで家族や友人とワインや料理が愉しめる。
Chateau La Coste シャトー・ラ・コスト
チェックイン後の部屋には、ウェルカムスイーツと「シャトー・ラ・コスト」のロゼスパークリングワインが用意されている。夕方、部屋のプライベートテラスで飲むロゼも格別だ。
ソムリエの話では、「シャトー・ラ・コスト」のワインはプロヴァンスを体現している、その土地らしいワイン。プロヴァンスで飲むワインが、ワイナリーのホテルと同じように日本で愉しむことができる「THE SHINMONZEN」は嬉しい。
Restaurant ジャン・ジョルジュ氏監修のレストランがオープンに先駆けて
2023年以降、あの世界中が称賛するニューヨークのシェフ、ジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリスティンが手がける京都初のレストランが、メインダイニングとしてオープンする。
ジャン-ジョルジュのフレンチは、野菜やフルーツのエキス、ハーブの風味などを活かした新しいモダンフレンチ。自身が魅せられた東アジアのスパイスや、生姜、ワサビ、柚子、出汁などの日本食材にもインスピレーションを得て、独創的な形で一皿一皿に取り入れている。革新的な料理の数々は、世界中の食通を虜にさせている。
「THE SHINMONZEN」のエグゼクティブシェフは、パリ・ヴェルサイユ出身のアレクシス・モコ氏。ジャン・ジョルジュが信頼しフィロソフィーを理解する彼が、すべての料理を監修している。オープンに先駆けて、6月に体験した特別なテイスティングメニューの一例を紹介する。
前菜は、お刺身とスパイシーホワイトポン酢。カンパチや鯛などの季節のお魚のお刺身に「シャトー・ラ・コスト」の白ワインを合わせていただく。
次の冷菜は、ケールを使ったサラダで、松の実、バジルパウダー、ペコリーノで仕上げた、目にも鮮やかな一品。
魚料理は、焼いたいさきにタラゴンで香りをつけたにんじん、ターメリックを使ったソースで、ロゼワインと合わせる。
プロヴァンスでは、ロゼワインがよく飲まれる。海側の畑、山沿いの畑でもテロワールによって味が違う。シャトー・ラ・コストがバイオダイナミック農法で製造するワインの中から、偉大なワインという意の「グラン・ヴァン」シリーズのロゼを合わせる。
ロゼは、品種グルナッシュとシラーのブレンドの「ラ・コスト・グラン・ヴァン・ロゼ」。目にも鮮やかな濃厚な桜色で、果実味が特徴のすっきりとした味わい。
にんじんが根菜で温かさがあるので、ロゼワインとのペアリングを感じる。軽めのロゼというより、ストラクチャ(骨格)のしっかりした強めのロゼが焼いた魚の味にも負けずに、むしろ寄り添ってくれる。ワインが持つハーブのような爽やかさも、ソースと合う。
メインの肉料理は、和牛テンダーロイン。野菜は、ほろ苦さのあるブロッコリーラブを合わせ、ソースにはゴマと唐辛子が使われていてユニークな味わい。「グラン・ヴァン」の赤ワインを合わせていただく。
フランス産チョコレートのガナッシュを流したチョコレートタルトに濃厚な生クリームを搾り、バニラのアイスクリームにはバニラのさやごと入っているため香りがいいデザート。パティスリーは、太刀掛功二(たちかけ こうじ)によるもの。美しいウェルカムスイーツも彼の手によるものである。
Breakfast 朝食
朝は部屋のプライベートバルコニーでも、ラウンジのテラスでも朝食を取ることができる。朝食にもハーブやスパイスが使われている。
「アボガドトーストポーチドエッグ トーストしたひまわりの種、レッドチリペッパーフレーク」「スクランブルエッグとブロッコリー、コンテチーズ、ディル」「ヨーグルトボウル グラノーラと季節のフルーツ」など、好きなメニューをチョイスして愉しめる。
Experiences 新門前通でアートツアーを体験
京都でも有名な骨董通りの新門前通り近くを、ゲストエクスペリエンスチームが、ゲストに合わせて案内してくれる。また、祇園白川には、京都ならではの店もたくさんある。希望すれば界隈のアートツアーや散歩のプランを体験できる。
新門前通りから入る、裏路地を散歩。家の日常と華やかな町のお店が共にある風景だ。例えば、ホテルでモダンフレンチを愉しんだあと、外に出て京都らしいバーを訪れることもできる。
小径を抜けて、祇園新橋・白川筋から花見小路まで足を延ばすと、お好み焼き屋、餃子屋など気軽でありながら祇園の情緒を残した伝統的な飲食店が立ち並ぶ。昭和51年に重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けた祇園新橋・白川は、その景観を守り、旅人を温かく受け入れてくれる。
この界隈で京都を感じる30分のちょっとした散歩でも、じっくり古美術を愉しんだり、建仁寺や知恩院など神社仏閣を訪れる京都を感じたいと思ったら数時間でも、ゲストの希望に合わせて相談して愉しめる。
通りの名前に英語も書かれた「新門前通 SHINMONZEN SHOPPING STREET」は、京都でも有名な骨董品店が並ぶ通りで、一つ向こうには茶器も多くある「古門前通(ふるもんぜんどおり)」がある。
中庭のあるKAJI’S ANTIQUES 「梶 古美術」は、「THE SHINMONZEN」が食事の器を色や大きさなど用途に合わせてシェフが相談、オーダーしている美術店だ。歴史あるものを扱い、2階には魯山人の古美術がずらりと並ぶ。南禅寺の方で現代美術アートも扱う。
その時代に実際に使った人々の温もりや当時の景色が感じられるようであり、そういった意味でも貴重な体験である。ホテルのアートツアーは、入りたい気持ちを後押ししてくれる。
ホテルの二つ隣にある「夢工房」京都店の入口には、四代 田辺竹雲斎による竹のインスタレーションが常設されている。東京・銀座のグッチ並木1周年を記念したコラボレーションでも知られる、世界的に注目を集めている竹工芸の作家だ。
入口をくぐった先の移築された150年以上の建物には、新旧の作家の作品を展示している。展示替えをして、常に素晴らしい空間を提供し、新たな風を吹かせてくれるギャラリーだ。
老舗「菱岩」の仕出し
リクエストをすれば、ホテルの向かいにある1830年創業の老舗「菱岩」のお弁当を頼んでいただける。「菱岩」は、劇場の南座などにも昔から仕出しをしている名店。ホテルへの仕出しは特別な体験である。
プロヴァンスと京都、アートと自然が共存する、「THE SHINMONZEN」は人生に豊かな時間を提供する。今後オープンするメインダイニングのレストランも愉しみにしたい。
<Information>
<プライベート送迎、運転手付サービス手配>
※車種や予約はホテルにお問い合わせ
新幹線の乗車車両を事前(2日前迄)に伝えると、京都駅のホームまで迎えにきてくれてホテルに車で送迎してくれるホテルサービスがある。
THE SHINMONZEN ザ・シンモンゼン
京都府京都市東山区新門前通西之町235
TEL:075-533-6553 (代表)
https://theshinmonzen.com/jp/
photo by 田頭真理子(Mariko Tagashira) https://marikotagashira.com/
広島県尾道市出身。写真家 立木義浩氏と出会い写真家を志す。東京を拠点に広告撮影をする傍ら、祭りや文化などに関わる人間模様の撮影を続ける。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。