【公演レポート】新国立劇場バレエのトップダンサーが出演、大人も観たいバレエ『ペンギン・カフェ』開幕!

初日を迎えた、「こどものためのバレエ劇場 2022『ペンギン・カフェ』」

ここは、ペンギン・カフェ。音楽にのって、ペンギン(オオウミガラス)が軽やかなステップを踏んで、踊り出す。手には、トレーを持っている。ペンギン・カフェのウェイターをしているのだ。

ペンギン(オオウミガラス):広瀬碧

オオウミガラスとは、すでに絶滅していて、太西洋に生息していた生き物だ。かつてペンギンと名付けられたこの鳥は人間の乱獲で姿を消し、現在、南半球にいる二本足のペンギンはオオウミガラスに似ていたため、同じ名前が付けられた。

振付は、2010年から2014年まで新国立劇場舞踊芸術監督を務めた、世界的振付家のデヴィッド・ビントレー。作品は30年前に初演され、英国ロイヤル・バレエのトップダンサーたちのために振付された。出演者のほとんどは被り物をしながら踊り、難易度の高い振付をこなすが、そうとは見せない鮮やかな動きだ。鍛えられた人にしかできない振りやステップで、生き物の動きを再現する。また、この作品に込められた意図を理解し、それぞれの役割や感情を表現している。

ビントレーは、ワールド・ミュージック・アンサンブル「ペンギン・カフェ・オーケストラ」の音楽にインスピレーションを得て、この作品を創作したという。ミニマルミュージックの民族調で軽やかなメロディに乗せて踊られるバレエには、人間中心のこの世の中に対する警鐘のメッセージが込められている。

ユタのオオツノヒツジ:米沢唯

テキサスのカンガルーネズミ:福田圭吾

最初にペンギン・カフェを訪れたのは、ユタのオオツノヒツジ。舞踏会のような衣装を着て、優雅に華麗に舞う。タキシードを着て一緒に踊るのは、求婚者だ。テキサスのカンガルーネズミは、ジャンプを繰り返し、明るく陽気に踊って、客席を沸かせる。豚鼻スカンクにつくノミは、民族舞踊を踊る男性たちにくっつくようにリフトされて絡んだり、離れたり、自由自在でときにアクロバティックな動きをする。ケープヤマシマウマは、スタイリッシュで格好よく、しなやか。しかし、彼の周りで踊る動物の頭蓋骨を頭の上に髪飾りのように乗せてシマウマ柄のファーを纏った女性たちは、ケープヤマシマウマに無関心だ。

豚鼻スカンクにつくノミ:五月女遥

ケープヤマシマウマ:奥村康祐

熱帯雨林の家族は、両親と子どもの3人で、身につけたものはほぼ無く、自然のなかで身を寄せ合うように暮らしている。ブラジルのウーリーモンキーは、鮮やかな衣装で目を引き、やがてエネルギッシュな踊りはみんなを巻き込んでカーニバルのようになる。

最初はペンギン(オオウミガラス)が可愛らしく踊り、カフェを訪れる客が優雅に男女で組んでダンスをし、個性的な生き物たちがそれぞれの特色をいかした踊りを披露する。

しかし、この作品に登場する生き物は、すでに絶滅しているか、あるいは今この世からいなくなろうとする絶滅危惧種なのである。熱帯雨林の人間の家族は、環境が変わることへの悲しみをたたえている。

色鮮やかで熱狂的なカーニバルの後には、雨が降ってきて、全員が逃げ惑う。何が起こって、生き物たちはどこに向かうのか。劇場で、ビントレーが描いた結末が客席に示される。

熱帯雨林の家族:小野絢子、貝川鐵夫

ブラジルのウーリーモンキー:福岡雄大

キャストは、新国立劇場バレエ団のプリンシパルも出演する、日本屈指のトップダンサーたち。

主役のペンギン(オオウミガラス)役は、広瀬碧(ひろせ あおい)、池田理沙子、赤井綾乃の3名が、回替わりで出演する。初日の広瀬碧は、愛らしく軽快に踊った。洒脱な音楽のテンポに合わせた精緻で重みを感じさせないステップが、作品の世界観と共に客席を自然と『ペンギン・カフェ』の生き物たちが集う世界へと惹き込んでくれた。この始まりが、ラストの展開に生きてくる。

上演前には、井の頭⾃然⽂化園園⻑を務めた経歴を持つゲスト解説者の成島悦雄氏を迎えて、絶滅危惧種や自然環境、作品に登場する生き物について知るトークショーがある。劇場内には、ジャイアント・パンダとトキの特別な展示コーナーが設けられ、ペンギン・カフェにやってくる絶滅した動物や絶滅危惧種に関するパネル展示もあり、開演前や休憩中に見ることができる。

「新国立劇場バレエ団 こどものためのバレエ劇場」は、新国立劇場が次世代を担う子どもたちのために行っているプロダクション。芸術作品として大人も子どもも愉しめ、共に未来を紡いでいくために大切なことを気づかされる。

公演は、7月31日まで。

<Information>

こどものためのバレエ劇場 2022
ペンギン・カフェ
'Still Life' at the Penguin Café

日時:2022年7月27日(水)~7月31日(日)
会場:新国立劇場オペラパレス
公演情報:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/kids-penguin-cafe/
プロモーション映像:https://youtu.be/rsd4uegv7yQ

【振付】デヴィッド・ビントレー
【音楽】サイモン・ジェフス
【美術・衣裳】ヘイデン・グリフィン
【照明】ジョン・B・リード

主要キャストはこちら 

公演などに関するお問い合わせ先:新国立劇場ボックスオフィス TEL 03-5352-9999

 

撮影:鹿摩隆司

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
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