『Dramatic City “夢”』出演の愛月ひかる 「在団中は宝塚のことしか考えていませんでした」
1992年大阪・梅田茶屋町に誕生したシアター・ドラマシティ。これまで80作以上の宝塚歌劇公演を上演し、誕生以来大阪の文化発信地として、さまざまなジャンルのエンタテインメントを送り出してきた。その開場30周年を記念したコンサート『Dramatic City “夢”』が、同劇場と東京・東京建物 Brillia HALLで今年9月に開催される。
2021年12月に惜しまれながら退団した、元宝塚歌劇団星組男役スターの愛月ひかるさんが舞台出演をする。今回のコンサートへの抱負、近況などを伺った。
発表された豪華な出演者には、宝塚出身のレジェンド的なスター達も顔を揃える。麻路さき、稔幸、和央ようか、風花舞、大鳥れい、北翔海莉、愛月ひかる、羽純るい、夢妃杏瑠、星吹彩翔、彩月つくし(敬称略・全出演者)
シアター・ドラマシティの思い出
シアター・ドラマシティで思い出のエピソードはありますか?
一番の失態は出遅れをしたことですね。あれは本当に人生の中で、あってはいけない時間でした(笑)。『ヴァンパイア・サクセション』という舞台です。もう出番が終わったと思ってしまって、衣裳部に帰ってしまいまして。1分位のことだと思うのですが、あの時は血の気が引きました(笑)。
あとは本当に、楽しい思い出しかありません。劇場自体がお芝居をするのにとても良いサイズ感ですし、お客様の感覚が肌で伝わってくるように感じます。劇場一体が、ひとつの空間になるような雰囲気が、大好きな劇場ですね。
自分が主演をさせて頂いた『不滅の棘(とげ)』は、やはり凄く印象に残っています。他にも、『翼ある人びと』『シャングリラ-水之城-』などが思い出深いですね。
『シャングリラ-水之城-』は、下級生ながら初めて通し役をいただき、上級生の方々の中に入らせていただいてお芝居をすることの楽しさを知るきっかけになった舞台でもありました。普段の宝塚大劇場だと、下級生の頃は上級生とお芝居をする機会はなかなか無いので、当時のトップスターの大空祐飛(現・大空ゆうひ)さん含め、一座のように皆んなで一緒に居る感じの役であったので、そういった意味でも心に残っています。
東京建物 Brillia HALLは、私は初めてです。どんな感じなのでしょうか、広いですよね。 3階席までありますし。そのような空間でのステージは大変楽しみです。
憧れのスターの方々と夢の共演
出演者には、愛月さんが在籍していた組である、星組・宙組出身のトップスターの方々がいらっしゃいますね。
テンションが、とても上がっています。ただの宝塚ファン、みたいな(笑)。本当に、この方達なくしては、私自身、今ここに存在しないな、という位の思い出深いスターの方々ばかりです。
私は劇団に入る前に、今回ご一緒させていただく元星組男役トップスターの麻路さきさんがいらした、当時の星組の作品の映像を擦り切れるほど観ていました。麻路さんの退団公演で宝塚が大好きになり、そこから本格的に歌劇に熱中するようになって、宝塚受験を志すようになりました。
元宙組男役トップスターの和央ようかさんの舞台は、受験生の時に観た作品です。『ファントム』の実況CDをイヤホンで聴きながら受験スクールに電車で通っていました。
宝塚歌劇団を好きになったきっかけの方ばかりなので、ファンとして自分が舞台を観て憧れていた上級生の方たちと今回ご一緒できるというのは、凄く幸せなことだと思います。
今回の舞台『Dramatic City “夢”』では、この凄い方々と共演する意味合いを、ファンの方々には私がただのファンに戻らずにちゃんと舞台を務めているか観に来てください、という感じです(笑)。
念願の『ファントム』のデュエット!
歌う曲は、決まっていますか?
主演した『不滅の棘』、あとは2番手でさせて頂いていた『ヴァンパイア・サクセション』からソロで歌わせていただきます。元・星組メンバーが多いので、星組出身同士で歌わせていただく曲も多くあります。在団中は歌っていませんが、風花舞さん(元月組トップ娘役)と挑戦させていただく曲もあります。
そして…念願といいましょうか、当時のトップスターだった和央ようかさんと『ファントム』の曲を一緒に歌わせていただきます。本当に幸せだなあ、と思っています。ファントムとの親子のナンバー、「お前は私のもの」です。
現役時代に、同じ曲を中村先生の「宝塚巴里祭2019」(今回と同じ中村一徳作、演出)のレビューで下級生男役と歌ったことはあります。その時は自分が上級生ですし、ファントムの父親の気持ちで歌えました。上級生の朝夏まなとさん(元宙組男役トップスター)とも歌わせていただいているのですが、そこはやはり、宝塚マジックで、ちゃんと自分がお父さんの気持ちになれたんですよね。
今回はさらに学年が離れている受験生時代に憧れた上級生スターの方ですし、かなり緊張すると思いますが、頑張りたいと思います。きっと、たかこさん(和央ようかの愛称)は一瞬でファントムになられるのだろうな、と思うので、私も誠心誠意、役になりきってやりたいな、と。このような貴重な機会はありませんので、存分にやってみたい、と思っております。
今回のカンパニーは、どんな雰囲気になりそうですか。
先輩方と、お仕事でお話しする機会があったのですが、まりこ(麻路さきの愛称)さんが長(ちょう)のカンパニーになるので、きっと温かいカンパニーになるのだろうな、と感じました。
『Dramatic City “夢”』は、宝塚時代からの先生やスタッフの方々も多く参加されていらっしゃいますね。
退団後に改めてという意味では新鮮ではありますが、単純に、お会いできることが嬉しく、懐かしいと思います。演出の中村一徳先生も、音楽の先生も、辞める直前に関わらせて頂いた方たちばかりなので。(振付の)AYAKO先生は、最近ご一緒していなかったので嬉しいです。
退団後も変わらずに素の自分で
退団後、半年以上経ちましたが、近況はいかがでしょう。
退団後、1か月の記念日にインスタグラムを始めました(@hikaru_aizuki)。スタートしたからには更新しないと、なのですが自分自身で更新するのは本当に大変で! でもお陰でいろんなお知らせを発信することができます。
最近は、いろいろと忙しくしています。千葉県の市川市観光大使もしていますし、8月にはバースデーの「愛月ひかる TALK&LIVE」をするので、曲決めも始めています。ファンの方にアンケートを取って歌って欲しい曲をリクエスト頂いているのですが、いっぱいありすぎて、どの曲にしようかな、という感じで迷いながら選んでいます。
ファンの方との交流は変わりましたか?
私のファンの方々には、舞台の男役をもちろん応援していただきましたが、女性や女の子である部分のオブラートに包めないこの素の性格の「愛ちゃん」(笑)を愛して応援してくださっているのを現役時代から感じていました。だから、退団後はどのような反応になるか予感はありましたが、その想像以上に、意外にもそのままの私を受け入れてくださっている方が多いんです。
例えば、スカートも「早く履いちゃえばいいのに」っていう(笑)。髪型も「ロングヘアを見てみたい」や「もっと可愛い感じも見てみたい」というご意見もいただくので、「ああ、私はこのままで大丈夫」と思えています。だから、あまり迷いなく安心していろいろな活動ができて、とても有難いと思います。
意外と私のファンの方々は、女性に戻っていくことに関して前向きだなと思います。
『Dramatic City “夢”』は、役の扮装というよりは素に近い感じで、そのままの自分で出られる感じのコンサートになると思います。
ブレない宝塚愛
現在は、遠野あすかさん(元星組トップ娘役)が主宰されているバレエスタジオ「クラレス」で、プロデューサーとして受験生を見ていらっしゃるそうですね。
基本的には、私は面接を見ています。時間がある時は生徒を一人一人みていて、バレエやジャズなどのレッスンの受け方、ここをもっとこうした方がいいよ、など気づいたことがあったらアドバイスしています。そういう意味での一人一人をプロデュースする、もっとよりよくする意味でのプロデューサーという肩書きですね。
遠野さんが講師を探されていて、宝塚をとても好きな人にお願いしたい、と思われていたようです。繋いでくれた同期の推薦もあって、たまたま劇団を辞めたタイミングでお話しをいただきました。私の中では、宝塚を受けたい、という子のお手伝いができれば、とお引き受けしました。
宝塚を本当に好きなのが、お話から感じられます。
在団中は、外部の舞台は観ていませんでした。外の舞台が好きなら外で演じればいい、と思っていて、私は宝塚がやりたいのだから、とその気持ちを持ち続けていました。そこの宝塚愛はブレていませんね。
宝塚が好きなので、退団後は、外の舞台に出る気は正直全くありませんでした。ファンの方も、たぶん出ることはないだろうと思っていたみたいので、いまは出演してくれてありがとう、と感謝されています(笑)
今後についての思い
今後は、どのような姿を目指されますか?
舞台だけではなく、後進を育てることも続けていきます。
私は宝塚に入らなかったら、モデルや雑誌のお仕事をしたいというのは思っていました。だから、現在、女性誌などでファッションやメイクで自分を表現するというのも好きですね。
結婚したい、という夢は、子どもの頃からずっとあります。私の家族は仲が良いので、自分も家庭をいずれ築きたいな、と思います。一人っ子同士だと共感していただく方が多いのですが、頼れる兄弟姉妹がいない分、どこか不安で、結婚は現役時代もずっと思っていました。だから、人生の最終目標は宝塚ではなかったのかもしれません。
私自身は、どちらかというとフェミニン系というよりは格好いいライフスタイルをしている女性が好きです。女優の田丸麻紀さんも素敵ですよね。ショートでも女性らしい、お母さんになっても綺麗で格好いい。そういう風になれたらいいですね。
自然体ですね。愛月さんの今後が楽しみです。
私は裏表がない、とよく言われます。よくいえば、人によって態度を変えるということはありません。できないんですよ、そういうのが。そこは、自分でもブレていないと思います。だから、ファンの方達がその「私」を好きなら、無理なくこの姿をブレずに続けていきたいと思います。そうでないと、私ではなくなってしまうと思うのです。
舞台は、挑戦させていただけたらと思うものにまた出会えたら、やってみたいと思います。現在決まっている今後の舞台は外の舞台で男役に挑戦するのですが、純粋に役者としてやってみたいという気持ちからお引き受けしました。
舞台をずっとする、しないとどちらかに決めているわけではありません。今回のコンサートや今後の舞台を終えたら、また考えも変わるかもしれません。もっと舞台をやりたい気持ちになるかもしれませんし、その都度、自分の気持ちが変わるのだろうな、と思いますね。
だから、何にも決めてないんです、こうなっていきたい、という姿は。
幅を限定しない活動で、きっと新たなファンが増えると思います。
むしろ、これまで応援してくれていた方たちに、これからも私といてくださるよう、ご恩返しをしよう、というような気持ちで活動していました。言われてみればそうですね、今まで考えたことありませんでした(笑)。
私を新たに好きになってくれる人が増えれば嬉しいです。宝塚歌劇や在団中の私を知らない方々にも、興味を持っていただけて広がると良いな、と思います。
愛月さんも出演する、エンタテインメントの最前線を歩んできたシアター・ドラマシティが、さらなる未来へと踏み出す“夢”のステージは、こちら。
<Information>
シアター・ドラマシティ 30 周年記念コンサート『Dramatic City “夢”』
■構成・演出:中村一徳
■会場・日程:
東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)/9月9日~10日
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ/9月16日~18日
■一般前売:2022年7月30日(土)10:00~
■チケット料金:【東京】S席11,500円、A席7,000円 【大阪】全席11,500円
■公式HP: https://www.takarazuka-live-next.co.jp/stage/2022/dramacity30/
■お問合せ(10:00~18:00):【東京】梅田芸術劇場 TEL.0570-077-039 【大阪】梅田芸術劇場 TEL.06-6377-3888
■協力:宝塚歌劇団
■企画・制作・主催:タカラヅカ・ライブ・ネクスト / 梅田芸術劇場
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。