東京二期会オペラ劇場 オペレッタ『天国と地獄』上演中! ゲネプロレポート
東京二期会オペラ劇場 オペレッタ『天国と地獄』が、日生劇場にて11月23日(水・祝) ~ 27日(日) 上演中だ。直前に行われた本番さながらのゲネプロ(公開舞台稽古)の様子をレポートする。
愉しくなければオペレッタじゃない!
オペレッタとは、喜歌劇と訳され、オペラ作品に比べて内容も愉しく軽やかだ。音楽は管弦楽による本格的なクラシック音楽なのに、セリフがありストーリーも分かりやすく、特に今回の舞台はコメディとして気負わずに観ることができる。衣裳も華やかで、ダンスもある。作品は、2019年に劇場を笑いの渦に巻き込んだ鵜山仁演出で、待望の再演だ。
ギリシャ神話の神々が登場するパロディ
『天国と地獄』は、原題は「地獄のオルフェ」。冥界から最愛の妻を連れ戻すのに地上に着くまで後ろを振り返ってはいけないはずだったが…というオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」としても知られるギリシャ神話を、フランス人作曲家オッフェンバックがパロディ化した作品。どこをとっても愉しいメロディで、ギリシャの神々のキャラクターが登場し、それぞれに個性的だ。
あらすじ
バイオリン教師オルフェと妻のユリディスは倦怠期の夫婦。オルフェはユリディスの愛人で羊飼いのアリステ(実は地獄の王プルート)をやっつけようと罠を仕掛けるが、毒蛇に咬まれて死んだのは妻ユリディス。予想外の結果に喜んでしまうオルフェ。しかし、それを見ていた「世論」はオルフェに対し、妻を取り戻すべきだと主張する。オルフェはしぶしぶ「世論」といっしょに神々の世界へと赴き、天国にいる神々の王ジュピターの前で、嫌々ながら妻を返してほしいと頼む。そこで、地獄の王プルートの仕業と知った一行は、今度は皆で地獄へ行くことにする。
地獄で退屈しているユリディス。地獄の大王プルートが、彼女を取られないように鍵を掛けて閉じこめている。姿を変えてうまく部屋に忍び込み、ユリディスを誘惑する大の女好きジュピターに怒るプルート。そこに、ユリディスの夫のオルフェも到着する。天国と地獄の面々、ギリシャ神話の神々も入り乱れての大騒ぎ!
魅力的な登場人物と歌声!
こちらでは、24・27日出演のキャストの様子をレポート。衣裳も印象も個性的で華やかだった女声で歌われるヒロイン、ユニークなギリシャの女神をそれぞれに歌い演じたキャストを紹介する。
オルフェの妻であるユリディス役は、冨平安希子。同じ東京二期会オペラ劇場で上演された『ルル』で次々と男を虜にしていく魔性の女にも見えるが複雑な内面を抱えるタイトルロールを好演した彼女が、今回はまったく変わってコメディエンヌを歌い演じていた。常に眼がいく華やかさとヒロインにふさわしい観客を惹きつける歌唱だった。
この作品では、さまざまなキャラクターとそれに合った多くの声種の歌声が愉しめる。加えて、高めの音域のソプラノでも、こんなに音色と魅力の違う声が聴ける作品は新鮮だ。
(左上から時計回りに)ダイアナ/川田桜香、ヴィーナス/清野友香莉、キューピッド/松原典子、ミネルヴァ/中野亜維里
ダイアナ役は、本作が二期会初登場であるフレッシュな川田桜香。輝かしい鈴を転がすようなコロラトゥーラの声質が、軽やかで明るい曲調にぴったり。歌唱以外の演技も溌剌として弾けていて、コメディを盛り上げた。
ヴィーナス役は、清野友香莉。衣裳も「ヴィーナスの誕生」を彷彿とさせるような、柔らかく豊かな感じを上品に魅せるロングのドレスで、歌声もまろやかで艶があり、有名な美の女神を想像させた。ドイツで学んだ経験を持ち、6年前の2016年に二期会デビューしたのちに家族が増える人生の変化を経て、声の表現に深みを増している印象だ。
キューピッド役は、松原典子。役柄も歌もソロで目立つ場面が多く、その場をメインになって歌う実力を感じた。2021年には「ディズニー・オン・クラシック2021〜まほうの夜の音楽会」ヴォーカリストにも選ばれ、歌い手として注目の存在感だ。
ミネルヴァ役は、中野亜維里。知恵の女神のため、小道具の眼鏡をかけている。一つの曲で女神たちが特徴的なそれぞれのフレーズを与えられて次々に歌う楽曲が多いのだが、その中でも眼鏡姿で良い意味でアクセント的に入ってくるのが、とても目立っていた。それは、知的な感じを見せるという表面的な表現ではなく、この役に愛着を持ってフレーズをどう演じ歌うかを熟考しての表現が伺えた。
他の神々や登場人物、もちろん男声のプルート、ジュピター、オルフェといった個性の強いキャラクターも秀逸。まるでお笑いのような「間」も絶妙で、オペラ歌手の得意とする歌にとどまらず、笑いのセンスも光っていた。指揮者を中心に、全員で作り上げるアンサンブル力を感じた。
指揮者・原田慶太楼が、東京二期会に初登場!
ゲネプロでは、演奏前にオーケストラピットで管弦楽の団員に話しかける声や笑い声が聞こえてきて、奏者と和気あいあいの雰囲気が感じられた。通常は緊張感が漂う、ゲネプロでは珍しい休憩中の光景。練習を積み重ねたゲネプロの最後は、アシスタントコンダクターに演奏を任せてマエストロは客観的に客席で音楽と舞台を確認し、歌手とともに本番を愉しもう、という感じで終わった。演奏は、東京フィルハーモニー交響楽団。
今をときめく人気指揮者の原田慶太楼は、2020年シーズンよりアメリカジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督、2021年4月東京交響楽団正指揮者に就任。国内外のオーケストラと共演、自身もオペラが大好きで、オペラ指揮者としても実績が多い。シンシナティ交響楽団&シンシナティ・ポップスの指揮者の経験を持ち、『スター・ウォーズ』などで有名なジョン・ウィリアムズが手がけた映画音楽も多く演奏している。キャラクターをより理解して表現する、エンタテインメントとしての音楽にも長けた原田がこの作品を演奏するのにも、大きな魅力がある。
実際、舞台は大いに盛り上がりを見せた。歌手陣が原田の振るタクトに誘われるように、キャラクター像もより愉しく膨らみ、オッフェンバックの音楽と共に客席に与える印象が確実に大きくなっていた。指揮者への信頼のもと出演者、オーケストラが纏まって、この愉しい物語を紡いでくれる。
そして、この『天国と地獄』で有名なのは、終幕で演奏される、あのメロディ。フレンチカンカンや運動会の徒競走、カステラ1番♪の歌詞で知られる文明堂のCMソングで使われている音楽だ。
今回の舞台は、休憩を挟んで全2幕。セリフは日本語訳で上演、歌唱部分にはさらに日本語字幕が付く。内容がより分かりやすく、スピード感で笑わせる早口言葉のような登場人物の歌詞も追いやすい。
オペレッタファンも、オペラファンも。まだオペラやオペレッタを体験したことのない舞台ファンにも。ぜひ気軽に体験してみては?
<Information>
NISSAY OPERA 2022提携
《二期会創立70周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場『天国と地獄』
公演日:
2022年11月23日(水・祝) 17:00
24日(木) 14:00
26日(土) 14:00
27日(日) 14:00
会場:日生劇場
チケット情報、各日キャストは公式サイトまで。
http://www.nikikai.net/lineup/orphee2022/index.html
指揮:原田慶太楼
演出:鵜山 仁
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。