【舞台写真レポート】新国立劇場バレエ団『コッペリア』
新国立劇場バレエ団『コッペリア』が公演中だ。『コッペリア』最終舞台稽古が行われた22日の舞台写真を掲載する。
この作品は、2021年5月に上演予定だった際に新型コロナウイルス感染症の影響により全公演中止となり、無観客公演にてライブ配信された。その際、16.7万人を超える視聴者が作品を観てTwitterのトレンドに入るなど、大きな話題を呼んだ。
『コッペリア』は、現代バレエの巨匠ローラン・プティがマルセイユ・バレエ時代の1975年に発表し、古典からストーリーを読みかえた画期的な新演出で知られる。主役のスワニルダとフランツの繰り広げる恋の駆け引きを中心に、話が展開する。
ダンサーの表情がより間近で見られるのは映像配信の良さで、実際に劇場で舞台全体を観ると、よりローラン・プティの世界観が随所に感じられる。初見で作品を観る方はもちろん、ライブ配信を観た方にも改めて愉しめる舞台作品だ。
フランスの街をイメージさせる小粋で洒落た舞台美術や衣裳からプティ・ワールドに誘われ、ローラン・プティ独特の振付が観客を惹き込む。カリカチュアライズ(誇張)された表現は、時にユーモアがあり、時に人間の悲哀を感じさせる。
流れるようなクラシックバレエの踊りに、人物のキャラクターや感情表現のアクセントとして、コミカルでコケティッシュな動きが振付に入ってくる。音符の譜割りに合わせた振付は音楽と踊りが一体で、ぴったり合うと相乗効果を発揮するが、踊りの正確性が要求される。アクロバティックな要素も入る振付を難しいと感じさせない、新国立劇場バレエ団全員の力量が愉しい舞台に見せている。
ダンサーは言葉の代わりに、身体のみで表現をする。観客に何を伝えているのかが分かるのは、プティの優れた振付を体現する、ダンサーのテクニックや表現力によるもの。バレエ作品なのに、台詞が飛び交うような、洒落たお芝居を観ている感覚でもあった。
街の娘たちが衛兵たちに投げキッスをマイムで表現する、独特の振付やチャーミングな動きも印象的だ。青年の衛兵たちは、音楽に合わせて溌剌とリズミカルに行進してステップを踏む。
続く第2幕では、スワニルダにそっくりな人形を偏愛する、コッペリウス博士のドラマが描かれる。人形に恋する彼の人間性を浮き彫りにし、哀れで純粋でもあり、ブラックユーモアでもあるペーソス(悲哀、哀愁などの意味)を感じさせた。最終舞台稽古のスワニルダ役・小野絢子は、人間と、機械仕掛けの人形コッペリアになりすました様子を踊り分けて流石だった。スワニルダの友人たちは、屋敷に忍び込む場面で息の合ったコミカルな踊りを魅せた。
コッペリウスと人形コッペリアの二人の踊りは、この作品のハイライトでもある。コッペリウス役は、ローラン・プティ自身が演じた名演が、今でも伝説として語り継がれている。
かつてプティ自身が踊ったコッペリウスという人物の造形や魂が、この日踊った山本隆之の同役に息づいているようで、テクニックも人物表現も素晴らしかった。足さばきも、人形か本物の人間と踊っているのか分からない程だった。
終幕の音楽のギャロップは、パ・ド・ドゥがあり、街の男女も全員参加して生き生きと踊る場面。フランツ役の踊りは颯爽とし、跳躍などの見せ場もある(主要キャストのお知らせは公式参照)。その軽快なメロディや盛り上がりとは裏腹に、悲哀に満ちたコッペリウスの姿が印象的で、若者たちの幸福感との心情のコントラストが余韻に残る。
コッペリウスの人生を通して、プティ作品流に普遍的な問いを投げかけるような印象的なラストは、ユーモアのある作品だけに終わらない深みをストーリーに与えている。
独特のローラン・プティの世界を、新国立劇場バレエ団で観る本公演は、2023年2月26日(日)まで!
チケット情報、出演者、最新情報などは公式サイトまで。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/coppelia/
<Information>
2022/2023 シーズン
新国立劇場バレエ団『コッペリア』
Coppélia Ballet by Roland Petit
芸術監督:吉田 都
振付:ローラン・プティ
音楽:レオ・ドリーブ
芸術アドヴァイザー/ステージング:ルイジ・ボニーノ
美術・衣裳:エツィオ・フリジェーリオ
照明:ジャン=ミッシェル・デジレ
指揮:マルク・ルホワ=カラタユード
管弦楽:東京交響楽団
出演:新国立劇場バレエ団
公演日程
2023年2月23日(木・祝)14:00
2023年2月24日(金)19:00
2023年2月25日(土)13:00/18:00
2023年2月26日(日)13:00/18:00
会場:新国立劇場 オペラパレス
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/coppelia/
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。