【レポート】新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」『マクベス』公開リハーサル

米沢唯、福岡雄大

新国立劇場バレエ団2022/2023シーズン「シェイクスピア・ダブルビル」『マクベス』<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>の公開リハーサルが、3月23日に新国立劇場 小劇場で行われた。

マクベス夫人(米沢唯)のソロから始まり、マクベス(福岡雄大)とのパ・ド・ドゥをウィル・タケットが二人を指導するリハーサルの形式で、舞台上で公開。ピアノが鳴り響く中、緊張感あるスリリングな踊りが披露された。

『マクベス』はオリヴィエ賞など数多くの賞を受賞し、世界的に活躍しているウィル・タケットを振付に迎え、新国立劇場バレエ団から世界に発信するオリジナルバレエ。ウィル・タケットは、日本でも『ピサロ』などの演劇の演出を手掛けている。

 

<公開リハーサル>

ウィル・タケット(振付)
福岡雄大(マクベス役)、米沢唯(マクベス夫人役)、清水裕三郎(魔女の精霊役)

繰り返される不穏な和音に、高音の旋律が鳴り、不安で神経質にも聴こえるような音を奏でる。音楽は、ジェラルディン・ミュシャ作曲。画家アルフォンソ・ミュシャの息子と結婚した作曲家である。

マクベス夫人がソロで踊る。滑らかな動きのようでいて、湿気を帯びた、じっとりとした情念も感じさせる。時折、振付のタケットが踊りを止めて指示を入れ、動きを試してみる。「最初は時間をとって、その後、早く動くように」言いたいこと分かるよね、という感じで、マクベス夫人役の米沢に通訳を通してイメージを与えていく。「後ろに戻る動きを強く」「もっとスペースを広くとって」など、不安な音楽の流れやうねりに沿って、観客の体感や目に見える印象も揺さぶるような、緩急をつけていく。振付の動きで、このマクベス夫人がやはり一筋縄でいかないような印象を受けた。

『マクベス』は、シェイクスピアの作品の中でも、暗殺、策略、野心、殺人、嫉妬とさまざまな人間模様が渦巻く作品。その内容をバレエで新制作する今回の作品は、どのように振付がなされ、ダンサーがいかに踊るか、非常に興味深い大胆な試みである。

マクベス夫人が夫の帰りを待ち、マクベス役の福岡雄大が登場する。二人は抱擁する。タケットが「あまりロマンチックになりすぎないように」と指導する。今回のチャレンジを象徴するような言葉である。生身の人間を描き、振りや動きを通して様々な感情を呼び起こし、マクベスとマクベス夫人のフィジカル(肉体)な関係を想像させ、普段は蓋をしているような深い感情まで描き出しそうな予感のするパ・ド・ドゥだった。「全てを同じ(一連の)流れの中でやって欲しい」というリクエストに連続する高度なリフトも含まれ、何度も福岡が米沢を持ち上げて練習を繰り返した。場面は、戦いから帰ってきたマクベスを迎え、マクベス夫人はセクシャルな魅力を彼に感じている(質疑応答でのウィル・タケット談による)。

タケットの「少しフォーマル過ぎるので、お互いを求め合っている感じに」という指導があり、今後、さらに濃厚なバレエ作品になりそうだ。そして、魔女の精霊役が王冠をもたらす。

以上で、20分ほどの公開リハーサルが終わり、参加したメディアは拍手喝采だった。タケットは、何度も「Lovely」素晴らしい、と二人を褒め、ダンサーたちが優れていて出来るからこそ、数小節の音楽の振付を色々試しながら稽古を進めていった。

 

続いて質疑応答へと続いた。ウィル・タケット、福岡雄大、米沢唯が登壇し、記者の質問に答える形で、作品の抱負を語った。

(一部抜粋)
ウィル・タケット「(ダブル・ビルで)『夏の夜の夢』と2作品の上演はとてもいいですね。『夏の夜の夢』の振付は素晴らしく、美しく、軽やか。作品自体が魔法のような雰囲気を纏っていて、一方、この『マクベス』は正反対の作品。一緒に上演することも、大きな見どころです」

福岡雄大「(公開リハーサル中は)昨日、振付が大きく変わったので、振付に集中していました」「芝居要素を多く含み、芝居がお好きな方も観にきていただけるような作品になるのではと思います」「どの公演でも課題はありますが、新しい作品を生み出すということは、劇場の歴史に1ページを刻むということ。名誉ある作品に、マクベス役で出演すること自体がチャレンジです」

米沢唯「ロマンチックにならないように、というのは大きな課題です。恋する少女や夢見る女の子をこれまで数多く踊ってきたので、セクシャルな大人の生身の女性を演じることはチャレンジ。人生をかけて演じたい。頑張ります」「『夏の夜の夢』は、明るく美しく、キラキラふわふわな感じ。『マクベス』には、死や男女の関係といった、いつの時代にも変わらない人間のある一部分の真理が含まれていると思うので、誰でも共感していただけるのでは、と思います」

ウィル・タケット

福岡雄大

米沢唯

撮影:阿部章仁

本公演は、シェイクスピアの戯曲をもとにした作品『マクベス』『夏の夜の夢』を、二本立てで上演するダブルビル。

<ストーリー>

【マクベス】スコットランドの将軍マクベスとバンクォーは荒野で3人の魔女たちから、マクベスは王になる、バンクォーはその子孫が王位に就くと予言される。野心に燃える妻にそそのかされ、王を刺殺したマクベスは王位を手にするが、バンクォーへの予言が疑心を呼び起こし、バンクォー親子の殺害も企む。死者の幻影に苛まれ錯乱するマクベスはさらに殺人を重ねていく。

【夏の夜の夢】ある夏至の夜。妖精の住むアテネの森では、妖精の王オーベロンと女王ティターニアが可愛い小姓をとりあって喧嘩の真っ最中。そこにいたずら好きの妖精パックが登場し、王の命令で「惚れ薬」を手に女王にいたずらを仕掛けようとする。一方、貴族の娘ハーミアは許婚ディミートリアスとの結婚を拒絶し、相愛のライサンダーと共に森へと駆け落ちする。ハーミアを追いかけるディミートリアスと彼に片想いするヘレナも森の中へ2人の後を追いかけて…。

STARRing MAGAZINEでは、「シェイクスピア・ダブルビル」(『夏の夜の夢』予定)の主要キャストにインタビュー。今後の記事公開をお楽しみに!

 

<Information>

新国立劇場バレエ団 2022/2023シーズン「シェイクスピア・ダブルビル」
日程:2023年4月29日[土・祝]~5月6日[土] 全7回公演
会場:新国立劇場 オペラパレス

公演情報はこちら
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/shakespeare-double-bill/

 

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
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