【公開ゲネプロレポート】フレンチロックミュージカル『赤と黒』
三浦宏規
2023年12月8日(金)に池袋・東京芸術劇場プレイハウスで幕を開けるフレンチロックミュージカル『赤と黒』。初日前日の12月7日(木)に公開ゲネプロが開催された。
主演のジュリアン・ソレル役を、次々と話題作に出演し、現在とても勢いのある俳優の三浦宏規が務める。演出には、世界で注目を集める話題作『SIX』共同演出家のジェイミー・アーミテージ。日本での作品は、本作が初となる。ブロードウェイのミュージカル『SIX』は、テューダー朝・ヘンリー8世の6人の王妃達の人生をポップスのディーヴァとして現代に蘇らせて観客を驚かせた作品。この『赤と黒』も、フランスの文豪スタンダールの名作を題材に、歴史的な古典を新解釈のバージョンで魅了する。音楽は、『1789』などで知られるアルベール・コーエンによるフレンチロックだ。
11月に先に行われた公開稽古取材で演出家のジェイミーは、三浦について「自分の能力をぎりぎりまで発揮してくれるのが素晴らしい、作品全体で一つのエネルギーを描くことができる」と称賛した。その通り、舞台にジュリアンとして三浦が登場すると、全身で表現する圧倒的な熱量に、心が奪われ、目が離せない。人間の秘められた内なる感情や本質を、外からも感じることができるエネルギーの放出が物凄い。
また、ジェイミーは「野心家で繊細な美青年」とされるジュリアン役を「ピュア」な人物として捉えて演出を試みた。貧しい製材屋の息子として育ち、英雄ナポレオンを崇拝し、なぜ彼は聖職者を目指すのか。階級への冒涜、個への尊厳の踏み躙りに対して前半は静かに怒りを秘め、後半になるにつれ善悪では判断つかない人間の微細な心の流れを表現するジュリアンに観客は共感を覚えてしまうほど。悪役に見えるが、魂は高潔、という精神のピュアすぎる部分が表現され、繊細な感情と大胆な行動のアンバランスさが魅力的にさえ映る。
ジェロニモ役を演じる東山義久が情熱的な人気歌手を演じ、内面や本質に触れるようなジュリアン役と対照的に、オブラートに包んだような軽妙な粋さとイタリア気質の芝居がかった情熱さで愛を終始語る。ストーリーテラーの役割を担い、物語を包み込むようなメッセージは原作者自身の思想でもあり、哲学的で深い余韻を残す。
ジュリアンが人妻ルイーズの寝室に忍び込み、想いを告白するのは、序盤のロマンティックなシーン。夫に質素で貞淑と思われているルイーズ・ド・レナール役を演じるのは、夢咲ねね。三浦との演技や声の相性もよく、ジュリアンを夢中にさせ、激昂させ、彼の人生において決定的な役割を持ち、救いや憧れの人物ともなる難役を好演している。シーンごとに心情が移り変わる演技が鮮やかだ。
1幕ラストのシーンの♪「赤と黒」という楽曲は、ジュリアンの中にある感情を爆発させて歌う曲。彼は「愛」を諦め、これからは「野望」のために立ち上がっていこうと決意する。
1幕だけでも十分に見応えがあるが、2幕では、さらにマチルド・ド・ラ・モール役の田村芽実が登場。侯爵の娘で、パリの舞踏会で♪「誰も彼も退屈」と歌う。嘘と虚飾を嫌悪し、表面的なステレオタイプの男性を嫌い、相手の本質を自分で見極めようとする自我や自尊心がある。結果、ジュリアンに強く惹かれていく。
町長ムッシュー・ド・レナール役の東山光明、ラ・モール侯爵を演じる川口竜也、ブルジョワのムッシュー・ヴァルノ役の駒田一が芝居心を巧みに発揮し、がっちりと脇を固める。
最後は、カンパニー全員に拍手が送られ、しばらく止むことがなかった。
今回、自身が引き寄せた演出家との出会い、強力なカンパニーを得て、これからも舞台でさらなる活躍が期待されるだろう三浦の初期の代表作になる予感がする単独主演の本作品。見逃せない舞台だ。
言葉や年齢、国籍などを超えて、誰が観ても何かを受けとれる世界基準のような感覚的な舞台。濃密な演劇、ダンスなどの身体表現、一つ一つの場面が視覚的にも印象的で世の中に存在する抽象的な概念を歌詞やセリフにテンポよく乗せて、全てを含めて作品全体が一篇の叙情詩のような美しくスリリングなドラマだ。
三浦宏規、夢咲ねね
東山義久、三浦宏規、夢咲ねね
演出／ジェイミー・アーミテージ
私たちが作った新バージョンの「赤と黒」を楽しんでいただけることを願っています。
私たちはこの美しい物語の核心に迫るスリリングな作品にしたいと思い、お芝居、歌、そしてダンスそれぞれに焦点を当てて素晴らしいキャストの皆様と創作してきました。キャストの皆様一人一人が、心震わせる上質な作品を作るために懸命に取り組んできてくれました。
私はすべてのキャストの皆様そして最高のチームの皆様を誇りに思います。本日はお越しいただき有難うございます。
主演・ジュリアン・ソレル役／三浦宏規
ジュリアン・ソレルを演じます三浦宏規です。 ようやくこの日がやって参りました！
演出家のジェイミーを筆頭に信頼のクリエイター陣、強烈な個性を放つ出演者、最高にロックなバンドメンバー、そして それらを全て支えてくださるスタッフの皆様。この人達と一緒なら初日も全く怖くない！ そう思える方々と出会えたことを今とても幸せに感じています。
この作品は19世紀初頭、ナポレオン失脚後、王政復古の時代となったフランスが舞台のお話です。それが現代を生きる皆様の目にどう映るのか。何を感じ取っていただけるのか。
それでは、どうぞ「赤と黒」の世界をお楽しみください。
（＊一部抜粋）
☆11月稽古場取材より
1幕ラストのシーンに歌われるジュリアン・ソレル役の重要なソロ曲、♪「赤と黒」が本舞台に見事に昇華
キャストから、赤×黒の新しいスニーカーをプレゼントされて嬉しそうだった演出家のジェイミー
＜Information＞
フレンチロックミュージカル『赤と黒』
演出：ジェイミー・アーミテージ
上演台本・訳詞：福田響志
出演：
三浦宏規/夢咲ねね 田村芽実 東山光明 川口竜也/東山義久 駒田一
遠藤瑠美子 池尻香波
斎藤准一郎 竹内真里 今野晶乃 増山航平 髙橋莉瑚 松平和希 荒川湧太 吉井乃歌
スウィング：齋藤桐人
公演日程：
【東京】2023年12月8日(金)〜12月27日(水) 東京芸術劇場プレイハウス 【大阪】2024年1月3日(水)〜1月9日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
チケット料金：【東京】S席 13,500 円 A席 9,000 円【大阪】全席指定席 13,500円
企画・制作・主催：梅田芸術劇場
HP: https://www.umegei.com/rouge-noir2023/
X: @rougenoir2023
text by 鈴木陽子（Yoko Suzuki）
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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