「もうひとつの京都」〜綾部編〜 日本昔話の世界にタイムスリップ

料亭 ゆう月

「もうひとつの京都」を旅する

京都は、京都市だけにあらず。「もうひとつの京都」を旅する。京都府内には、まだ知られざる各エリアの魅力がある。それは、海の京都、森の京都、お茶の京都、竹の里・乙訓と呼ばれ、それぞれの魅力を持った、旅のストーリーがある。

 

〜綾部編〜

まるで、日本昔話のような原風景が広がる綾部。ここは、「海の京都」「森の京都」両方の特色を持ち、ゆったりとした時間が流れている京都府中部の町である。

森の恵みに育まれた、丹の国と呼ばれた豊かな農産物の豊かな暮らしが今も残る「森の京都」、山・川・海が一体となった天からの水の恵みを受ける「海の京都」でもある。

綾部は、雄大で美しい里山の自然が魅力のひとつだ。約1600年前に築かれた私市円山古墳は、京都府内でも最大規模の円墳。私市円山古墳公園の頂上からは、綾部の風景を一望でき、観光客は悠久の歴史に思いを馳せる。

私市円山古墳公園

私市円山古墳公園

季節や時間によって移りゆくこの街の象徴的な田園風景を眺めながら、日頃忘れていたスローライフの良さを実感できる。訪れる者の心身を癒してくれる。

 

室町時代の景色を思わせる、日本人の原風景

綾部には、昔の室町時代を感じられる、お食事処がある。オーナーは、京都・亀岡市の山奥にイギリスの田舎町コッツウォルズを彷彿とさせる「英国村ドゥリムトン」を誕生させて話題となった春山眞由美さん。そのオーナーが、室町時代をコンセプトに古民家を再生して造ったのが「御味噌庵 織りや」だ。

店名は、オーナーのお父様が西陣織の職人で手織(てばた) の音を聞いて育ったことに由来している。古民家を再生した店に、実家の西陣織の部屋を再現している。

オーナーのお話によれば、日本人が思い起こす原風景は、室町時代だそうだ。この時代には、誰もが知っている有名な日本のおとぎ話が数多く生まれている。西陣織の発祥も応仁の乱のあとの室町時代といわれ、商いが発展した活気に満ちた時代である。

日本昔話の舞台を思わせる里山の景色が広がる綾部で、室町をイメージして古民家再生の店が他にも続いて町全体を愉しんでもらえるようになったら、とオーナーは願っている。

言われてみれば、綾部の田園、山や川から、おとぎ話の登場人物が現れてきそうな雰囲気である。

「御味噌庵 織りや」の裏庭には、室町時代の商店が並ぶ様子を再現し、眺めながらお茶や甘味をいただくこともできる。

一番人気の料理は「朴葉味噌膳(ほうばみそぜん)」。事前に予約するといただける。熱々の朴葉味噌に、生産者の顔が見える農家の野菜を蒸したもの、綾部産コシヒカリの白米などが提供される。

朴葉味噌膳

甘味は、白みそぜんざいや、スコーンが入った和テイストのアフタヌーンティーセットなどがある。自家製の美味しい味噌料理だけにはとどまらない、室町時代に入り込んだような愉しい体験ができる。

御味噌庵 織りや

 

愛と平和の使徒、「アンネのバラ」

綾部には、1,200本のバラが咲き誇る、「綾部バラ園」がある。毎年、春夏に開催される季節の「バラまつり」には、多くの人が訪れる。ここは、市民ボランティア手作りのバラ園で、約150種類が咲く様子は美しい。

綾部バラ園

中央の花壇には、平和の使徒と呼ばれる「アンネのバラ」がある。花が咲くとオレンジ色で、やがて花びらがピンクに縁取られるこのバラは、このバラ園の象徴的な存在だ。『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクの父オットー・フランク氏との奇跡的な出会いが縁となり、日本にもたらされたこの名のバラを綾部市民が育てて増やし、日本全国に苗木をずっと送り続けている。「愛と平和の使徒」であるバラを通して、アンネの平和への願いを現在に伝えているのだ。

(上段)アンネのバラ

始まりは、一本の生糸から。世界のQOL(Quality of Life)に貢献

「綾部バラ園」は、「あやべグンゼスクエア」にある。綾部市で創業したグンゼ株式会社の歩みを「創業蔵」「現代蔵」「未来蔵」の3つのミュージアム「グンゼ博物苑」で紹介している。

ミュージアム「グンゼ博物苑」

創業者の波多野鶴吉が起こした事業の歴史を、今に伝える。その歴史は日本の近代化産業の歩みを知ることでもある。

グンゼ株式会社は長年のノウハウを活かし、メディカル分野でも技術を応用した医療用の縫合糸や人工皮膚の開発をし、グローバルな事業展開をしている。最新技術を分かりやすく紹介しており、人工皮膚の移植で火傷した皮膚が再生する様子を、プロジェクションマッピングでリアルに見せる。

一本の生糸から始まり、糸から綿へ。インナーウエアやレッグウエアのブランドで知られる同社は、人々の生活を豊かにして持続可能な未来へと努力を続けている。

大正6年に建てられた洋風建築の本社は、現在は「グンゼ記念館」になっている。

歴史的遺産の継承を目的に社宅であった「道光庵」の一部を移築した美味しい珈琲が飲めるカフェ「宗右衛門珈琲」や、綾部茶や地元米など綾部の名物や高品質なグンゼのアイテムが買える特産館もある「あやべグンゼスクエア」。

周りの里山の風景と共に、人間によりよい生活を送って欲しいと願う創業者の精神を受け継ぐ、心地よい安らぎのスポットとなっている。

道光庵・宗右衛門珈琲

 

優雅な料亭で、四季折々の庭園を眺めながらの美食

綾部の四季折々の景色を見せる優雅な料亭、それが「料亭 ゆう月」。忙しい日常から離れて、心を休められる。そんな「隠れ家」を創りたい、という想いから始まった。近代産業で栄えた綾部の地には、風情のある老舗の料亭が点在する。

人里離れた料亭は、通りから一本路地を入ったところにある。到着して驚くのは、広大な庭園だ。ここでは、季節の景観を愉しみながら、美味しい料理を味わう至福の時間を過ごすことができる。

京丹波の里山の恵みの丹波牛や丹波産猪肉、日本海の海の恵みである海鮮の会席料理や鍋を味わうことができる。ユニークなのは、綾部の農家が丹精を込めて作ったお米をにぎったご当地名物「綾部むすび」の会席料理のコースだ。

「水源」の里でも知られる大自然の恩恵を活かした綾部産のお米は美味しく、実は隠れた米どころとして知られている。

農家が愛情を込めて作った綾部産米は、炊くとふっくらとして美味しく、綾部の各店や料理人が独自のアレンジをして腕をふるう。綾部のお米を使ったどこにもないおむすび料理、それが「綾部むすび」だ。

ここ「料亭 ゆう月」では、料理長が腕をふるう旬の京都の素材を贅沢に使った日本料理と合わせて最後に出てくる、綾部むすびの素朴な味わいが絶品だ。シンプルだからこそ、奥が深いおむすびは、日本人のソウルフードでもある。

おむすびかいせき

桜、深緑、紅葉、雪化粧と四季を再発見しながら、時間が止まったような奥綾部で舌鼓を打つ。霜月の秋には、牡蠣と万願寺の酢の物、合鴨ロースなどの籠盛り、鶏もも肉の柚庵焼き、真鯛と大黒本しめしの東寺揚げ、海老の茶碗蒸しなどの締めのご飯に、奥上林産コシヒカリの塩おむすびが出された。柑橘ジュレを添えた黒豆と和三盆のゆう月ロールも、自然なほのかな甘さが上品な美味しさだ。

 

里山のライフスタイルを愉しむ

綾部では、里山に宿る宝物の風景や体験、知恵を伝えるべく、ここでの暮らしを体験する「農家民宿」が盛んである。そこでしかできない実体験をしたり、地元の夕食を一緒に食べたり、オーナーと触れ合う日々は、忘れられない得難い体験となるだろう。市内には、地域を知り、里山暮らしの一端を体験できる場所もある。

丹波・丹後地方に伝わる黒谷和紙は、手漉きの技法を守り続けており、京都府指定無形文化財に指定されている。綾部市黒谷町は、黒谷和紙の産地であり、全国でも稀少な紙郷である。その黒谷和紙づくりに使われる楮(こうぞ)の葉をおもちに練り込んだ楮餅つきができ、自分の作った楮もちを食べる体験ができる。

綾部 農泊


綾部には、他にも「ミツマタとシャガの群生地」で知られる老富町や、聖徳太子の創建と伝わる光明寺にある国宝・二王門、その近くで見られる君尾山の雲海など、他にも見どころがたくさんある。


まだ知らない「もうひとつの京都」を旅して、体験してみてはいかがだろう。

関連記事はこちら
「もうひとつの京都」〜福知山編〜 明智光秀が築いた城下町の福知山スイーツ 

<Information>

綾部市観光ガイド

 

協力 綾部市観光協会

京都府 京都府観光連盟

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
Previous
Previous

「もうひとつの京都」〜福知山編〜 明智光秀が築いた城下町の福知山スイーツ 

Next
Next

煌めくクチュール ボウを纏い、愛のように香る、新ミス ディオール ブルーミング ブーケ