東京バレエ団プリンシパル・秋山瑛にインタビュー! 演出/振付ウィル・タケットが物語を紡ぐ舞台『イノック・アーデン』でアニー役を生きる
自分は何を選ぶのか、それは誰のための選択なのか・・・。「愛」という不変かつ普遍のテーマの物語。
「言葉が旋律に、音と身体が言葉となり語る一つの世界を紡ぐ舞台」という新たなクリエーション、『イノック・アーデン』。原作は、詩人アルフレッド・テニスンの長編詩。作曲家リヒャルト・シュトラウスは、音楽的な韻律を持つこの美しい詩にインスピレーションを受けて、曲を作った。
演出・振付を手掛けるのは、英国ロイヤルバレエ出身でオリヴィエ賞受賞のウィル・タケット。世界的な活躍で知られ、日本国内で近年の演出及び振付作品は、『ピサロ』(主演:渡辺謙)、新作バレエ『マクベス』(新国立劇場)、『レイディマクベス』(出演:天海祐希、アダム・クーパー他)などがある。
ウィル・タケットが創り出して紡ぐ物語に、俳優の田代万里生と中嶋朋子が出演。そして、東京バレエ団から選出した秋山瑛、生方隆之介、南江祐生の3人のダンサーが参加する。
(*敬称略)
東京バレエ団プリンシパルの秋山瑛(あきやま・あきら)さんは、昨年2024年に芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞、金森穣『かぐや姫』のかぐや姫(世界初演)でバレエ界の権威あるブノワ舞踊賞2024の最優秀女性ダンサー賞にノミネートされるなど、今後のバレエ界を担う人材として注目されている存在。稽古場に入って、本作品の世界観を実感している秋山さんに、その魅力を伺った。
ウィル・タケットが紡ぐ、魅力的な世界観
作品の稽古に入られて数日(*取材時)と伺いました。どんな風に進んでいますか?
稽古中も、ピアニストの櫻澤弘子さん(本作品の演奏者)が、シュトラウスの音楽をずっと弾いてくださっています。 音楽と台詞、ピアノ演奏のベースはありながら、そこに踊りを入れる時に組み立て直して調整しているような感じです。
私たちダンサーが入る前に、台詞を音楽のどこで言うか、俳優のお二方がどの台詞を担当するのか、ということを予め打ち合わせしてくださっていて大枠は決まっている状態でした。
踊る時には常に音楽と一緒に踊るわけではなく、音楽のみであったり、もしくは台詞のみであったり、音楽も台詞も両方ある部分があります。合わせてみたときに、ウィルさんが「ここは、やっぱりこういう風にやってみよう」とおっしゃって、変えたほうが良さそうだ、となった場合は変更することもあります。
イギリスの海辺の村を舞台に、アニー(秋山瑛)、彼女に恋心を抱くイノック(南江祐生)とフィリップ(生方隆之介)が登場してダンサーが3人。物語を語る俳優(田代万里生、中嶋朋子)は、2人ですね。
男性、女性、ナレーションを必ずしも同じ方が担当するのではなく、台本に関しては、心情を語る箇所もあれば、情景説明もあり、台詞的なところもあります。イノックはこう感じた、アニーにこう言った、などの説明が入ったり、第三者からの視点が入って、時には登場人物の心のうちの思いを語ったりすることもあります。
そのすべてを、中嶋さん、田代さんが担ってくださっています。それぞれのキャラクターやナレーションの部分など一つひとつの台詞によってがらりと声の表情が変わり、お二人によってシーンが次々と展開されていくのが本当に魅力的なんです。
ウィル・タケットさんの演出は、いかがですか?
決め過ぎずに私たち出演者に委ねてくださる一方で、作品に対してのヴィジョンや、キャラクターに関して、ウィルさんのイメージが明確にあると感じます。ウィルさんは、台本に書かれていることだけではなく、作品や人物の方向性へと私たち自身の想像力を掻き立ててくれて、それがさらに音楽や台詞と合うように導いてくださっているのだと思います。
私が演じるアニーという女性は、イノックとフィリップという正反対と言ってもいいような二人の男性の間で揺れる女性です。お稽古中のウィルさんの言葉で、彼らのキャラクター像を考えるうえで大きな助けになった言葉があります。
「フィリップは“陸“(land)、イノックは“海”(sea)のような男性ではないか」という言葉です。イノックは少し強引で、自分の気持ちを行動や言葉で包み隠さず伝えてくれるなど、とても行動力がある人。フィリップはもっと内向的な印象で、子供の頃もいつも喧嘩でイノックに負けていて、アニーへの恋心を自分の心に秘めて陰から見守ってくれているような人です。
アニーについて、「傍目にはフィリップを慕うかのように見えて、その実イノックに思いを寄せておりました。人には見せず自分でも知らず知らずの恋心」という台本の言葉があります。イノックもフィリップも海と陸のようにどちらにも魅力があるけれど、アニーの心の中には“海”があり、ずっと海に惹かれる気持ちが強かったのだと思います。
ウィルさんの話を聞いて、お稽古を重ねる中で、キャラクターそれぞれに魅力を感じます。台本の順番通りにお稽古が進められているので、いまはアニーの人生を一緒に歩んでいる気持ちで…。人生が進んでいくと、環境が変わったり、自分ではどうしようもできない出来事が起きたりします。その中において、愛の形や選択が変わっていくことはありうるんじゃないか、と思うんです。
踊りの役作りについて
秋山さんは、毎回のバレエやダンス公演では、役作りをどのようにアプローチしていますか?
『かぐや姫』でかぐや姫を踊った時に演出振付の金森穣さんから、演じるということは、すべてがリアクションであって同時にアクションだ、というお話がありました。
どの登場人物も必ず、対する誰かがいます。その場で起きたことに誰かが何かを必ずすると考えてみると、手を出す、振り返るといった動作ひとつにしても、起きたことにショックを受ける、悲しむことも、表層的ではなく深いところまでいけるのではと思いました。そのことに、穣さんとお仕事をして気づくことができました。
クランコ版の『ロミオとジュリエット』(ジョン・クランコ振付)を踊らせて頂いたときの経験も、自分にとって大きな学びとなりました。同じ振付や設定でも、ロミオ役の同じ相手ともう一度踊っても、同じことは二度と起きません。リハーサルが進んで、相手や周りの人々のキャラクターが見えてくると、私の役も出来上がってくる、というような感触です。
今回の作品は、いかがでしょうか。ウィル・タケットさんの稽古において、役の表現に、音楽的なアプローチを特に感じますか? シュトラウスのオリジナル曲に、アンダースコア(言葉の背景に流れる音楽)、バレエのための楽曲が追加されると伺っています。
音楽から沢山の影響を受けて、創られていると思います。ウィルさんも、ピアニストの(櫻澤)弘子さんも、俳優のお二人も、片頁に台詞、片頁に楽譜が書かれている台本を持ちながらお稽古をされています。ここの音楽のフレーズの箇所で、この台詞を喋るという大枠の決まりが書かれたものです。
音楽、台詞、ダンスが一緒になる中で、この人物はこう思っているという情報を、観客が何処から受け取るのが一番いいのかというのを判断して、ウィルさんがすべて調節していきます。台詞を聞かせたい、音楽を聞かせたいというところは、踊りはただ眼を見るだけ、うなだれるといった振付になることもあります。
昨日は、お稽古でこんなことがありました。アニーがイノックの膝に頭を寄せて「(海に)行かないで」という振りがあり、イノックに「おまえたちの為だから分かって欲しい」と言われる場面があります。ピアノと合わせて動いた時に、音楽がとても膨らみのある演奏だったので、それでは心の中がうねっているような振付(上半身を回して大きくうねるような動きを見せる)に変える、ということがありました。ただ頭を置くだけではなく役の心を見せる動きを追加してみようか、という試みです。
ウィルさんは、日本語の台詞を音としても捉えていらっしゃいます。文節の区切りによって振りも変わりますし、喋るタイミングに組み合わせていきます。台詞を区切っても意味が通じるなら途中で言葉を切りたい、逆にずっと長く一度に話した方が意味が分かりやすいなら別の音楽のフレーズに合わせるように変えるなど、とても緻密な作業で進んでいます。
今回の振付は、ソロやパ・ド・ドゥも?
いまは3人で踊っていて、今度イノックとアニーのパ・ド・ドゥの振付があって、それぞれのソロやパ・ド・ドゥが用意されると思います。
それから、語り手のお二人も物語の中にいるように動くんです。歩き回ることもあるし、時には私たちに向かって本当に話しかけているような時もあります。舞台の後ろに映像が映るアイデアもあると、おっしゃっています。
演劇でもバレエでも音楽だけでもない、本当に全部が一緒になっているところが面白いと思います!
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秋山瑛さんの目指すダンサー像、『イノック・アーデン』の共演者について語る
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<Information>
『イノック・アーデン』
日程 2025年3月7日~16日
会場:新国立劇場 小劇場
原作 アルフレッド・テニスン
作曲 リヒャルト・シュトラウス
翻訳 原田宗典
演出・振付 ウィル・タケット
音楽監修 アンディ・マッセイ
美術・映像 ニナ・ダン
出演:
田代万里生 中嶋朋子/
秋山瑛 生方隆之介 南江祐生(東京バレエ団)
演奏 櫻澤弘子
公式サイト
https://tspnet.co.jp/whats-ons/enoch/
協力 公益財団法人日本舞台芸術振興会
企画製作:tsp Inc.
取材エピソードの編集後記は、こちら
衣裳提供:チャコット株式会社 キャミソールレオタード
問い合わせ先 0120-155-653
ヘアメイク:石川ユウキ(Three PEACE)
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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