韓国気鋭の演出家 オ・ルピナ × 主演 前田公輝(チャン・グレ役)、世界初演の新作ミュージカル『ミセン』の対談でお互いを語る!
演出家 オ・ルピナ、主演 前田公輝(チャン・グレ役)
【SPECIAL INTERVIEW】
演出家 オ・ルピナ × 主演 前田公輝
韓国で社会現象を起こした「ミセン」が、世界で初めてミュージカル化。韓国ミュージカル界で数々の受賞歴を持つクリエイター陣とタッグを組んだ作品だ。韓国気鋭の演出家オ・ルピナが日本で演出を担当、主人公のチャン・グレ役は、今回ミュージカル初主演となる前田公輝。上演前の昨年12月に、2人の対談が実現! 終始なごやかな雰囲気で進み、稽古場風景やお互いの印象など、いろいろなエピソードが飛び出した。
「ミセン」とは?
韓国のウェブコミック・WEBTOON(ウェブトゥーン)で大ヒットし、コミックスは累計300万部を突破。さらにドラマ化され、韓国のエミー賞と言われる百想芸術大賞など、2014年度のドラマ賞を総なめにし、「ミセンシンドローム」さらには、 “サラリーマンのバイブル”と呼ばれるほどの社会現象を起こした大ヒット作品。
舞台シーン(前田公輝) 大阪公演
1月9日 初日前日会見 フォトセッション
(12月取材時)稽古場から、作品の温かさが伝わりました。演出家のご自身が考えていた想像通りですか?
オ・ルピナ(以下、ルピナ)
作品が想像よりもっと温かくなって、活き活きしている印象を受けました。
現実的な会社の話なので、舞台上の行動を具体的にしていくことを、日本に来る前は考えていました。現場で作りながら思ったことは、よりシンプルにした方が本質的なことがちゃんと伝わると気づきました。
前田公輝さんのチャン・グレ役は、イメージにピッタリですか?
前田公輝(以下、前田)
聞きます?(笑)
ルピナ
ピッタリです。
前田
本当ですか?(笑)
ルピナ
イメージはもちろん声も大事なのですが、前田さんは声、そして声の使い方もピッタリ。初めてお会いした時に「ありがとうございます!」と、作品のプロデューサーに感謝しました。
前田
ええー!(驚) そう言ってくださるのは、意外です。チャン・グレ役のイメージに比べて、僕は声が低いと思ったので、最初は難しく感じました。稽古を重ねて自分と役が融合出来るようになってきたと感じています。
チャン・グレ役のオファーを受けた時に、前田さんが挑戦だと思ったことは?
前田
まず主演ということ、そして自分の性格から本当に離れている役だと感じました。だから、役作りをノートに書き綴って進めました。
台本を開けた時、ソロ曲の最初の言葉が「捨てろ。感情は邪魔なだけ」。俳優としてはプライベートでも感情の引き出しの幅を持っておいた方がよいと考えるので、逆なところも挑戦です。
チャン・グレは囲碁で生きてきたという背景の幹があり、早くに父を亡くして母と二人で生きてきた、という大きな2つが彼自身を作っている生命力だと思います。
自分なりに紐解くと、一定であることが安全で、成長する過程で次第に感情表現が豊かではなくなったのだと考えます。テンションを上げるとその分の見返りが必ずあるから、囲碁の世界でも母親の前でも、感情を削いで隠すことを学び、「一定であることの美学」に行き着いたように思います。
一方、歌では感情表現があって、両方の要素があるとチャン・グレ役が生きるということになるのだと思います。
タイトルの「ミセン」(未生)とは?
「ミセン」とは囲碁用語で、漢字では「未生」。完全に生きている強い石を意味する「完生(ワンセン)」と合わせて、韓国語の言葉が意味するものは?
ルピナ
「ミセン」がコミックやドラマで人気を得て、一般的に知られるようになり、囲碁用語というだけではなく、生活でも使われるようになりました。この作品が世の中に出るまでは、韓国でもあまり使われなかった言葉です。
「ミセン(=未生)」は、完全な人生の「ワンセン(=完生)」に対して、未完成の人生というよりも、足りないところが多いのは進む道が多いという意味で、最近は前向きに取られることが多いんです。囲碁用語に留まらず、完成ではない今はチャンスが多い、「ワンセン」を目指して人生の目標に向かっていく、と思ってくださるのがいいと思っています。
前田
本当に嬉しいなと思うのは、演出のルピナさんがおっしゃる言葉と似たようなことを自分も取材の場などで言えていたことで、知った時に秘かに喜びを感じます(笑)。
(2人笑)
オ・ルピナさんから見た、主演チャン・グレ役の前田公輝さんとメンバーキャスト!
演出家 オ・ルピナ(1月9日 取材会見)
チャン・グレ役 前田公輝(1月9日 取材会見)
主演を務める前田さんは、ルピナさんから見て稽古場でどんな風に映っていますか?
ルピナ
かっこいいです。
前田
えー!?
ルピナ
外見的なかっこよさも大きいのですが、人間的にかっこいいです。だから、その瞬間、瞬間に沢山学ぶことがあります。
前田 (照)
ルピナ
主人公で分量も出番も多く休む時間もほとんど無いのに、手を抜きません。準備や演技にしても、本当に真面目に一生懸命取り組んでいるのが分かります。否定的なイメージではなく、前向きな姿勢でやってみます、と調節してくださいます。私が伝えたことに対して、慎重に考えて方法を探し、それから行こうと決めて進む姿に、本当に学ぶところが多いんです。
ミュージカル『ミセン』稽古場映像
遂に開幕! 新作ミュージカル『ミセン』舞台映像(大阪)
舞台シーン
営業3課(左から:あべこうじ/前田公輝/橋本じゅん)
ルピナ
稽古場は自分が想像していたキャラクターと合っていて、営業3課の調和は本当に素晴らしくて面白いです。
前田
(笑って喜び、頷きながら)嬉しいですね!
ルピナ
普段の俳優の方々の姿からインスピレーションを受けることも多く、楽にしている時に出てくるイメージがキャラクターに繋がるといいな、と思います。皆さんがジョークを言ったり、戯れあったりする瞬間もとても良いと感じています。
私が演出の際に最も好んで面白いと思うのは、論理的に何か説明しなくても、集まった時にそれだけでも説明になって伝わることです。演出家の力というより、皆さんから得るものが非常に多いんです。
出演者と演出家が話し合う稽古場で、キャラクターが成長
日本での演出が2度目となるルピナさん。『ミセン』のカンパニーは、韓国の稽古場と違いますか?
韓国では、お互い意見を交わしたり、演出はこうしたらどうかと話したりすることが多いんです。日本で前回演出した『キングアーサー』では、神話の世界が舞台であったので、俳優の皆さんが与えられた役をそれぞれに表現しようと本当に努力してくださいました。
『ミセン』は現代物で仲間の同期の話であり、俳優の皆さんが意見や考えを提示してくださる稽古場は、韓国と似ていて差がないと感じています。あるとすれば、日本の俳優の方々は、もっと慎重に悩んでくださいます。俳優の皆さんが私よりキャラクターのことを非常に深く考えてくださっているので、演じる姿を見た時に、まさに自分の思っていた通りだと感じることがとても多いんです。
大手貿易会社「ワン・インターナショナル」のメンバーキャスト。オ・サンシク課長(橋本じゅん)率いる営業3課に、チャン・グレが配属される
前田
こういう現場は、なかなかないんです。それは、もちろんルピナさんがカジュアルな現場を作ってくださっているから。日本ではなかなか経験できない環境なので、本当に感謝しています。稽古場で一度、「いや私は」「僕は」、わーーっとなって「待って、俺のシーンだから!」と、ハン・ソギュル(内海啓貴さん演じる、グレの同期役)が叫んだというエピソードも(一同爆笑)。決められた指示でよい場合もあると思いますけど、今回は群像劇でチームワークの目線が絶対的にこの作品に関わってくると思うので、ルピナさんは凄いと思います。
舞台シーン
♪ワン・インターナショナル
韓国気鋭のクリエイター、オ・ルピナ演出オリジナルミュージカルの稽古場!
『ミセン』の舞台は、なぜミュージカルに?
ルピナ
プロデューサーの依頼でしたが、この作品をミュージカルとして作ることに興味深くもあり、怖くもありました。いわゆる華やかなミュージカルの表現方法ではなく、重みがあって濃い気持ちを淡々と見せる、人間の内面や感情を表現するのにどう見せればよいか、一歩間違うとダサい作品になるのではと心配もしました。
ミュージカル化で、成功だと思いますか?
ルピナ
(力強く)はい!
前田さんから見た、稽古場での演出家オ・ルピナさんの印象は?
前田
芸術的センスが凄いと思います。服もお洒落で、カンパニーの皆んなが多分毎日楽しみにしているくらい。芸術はこの人には分かる、分からない、長い年月が経って認められたなど美術の世界でもあると思うのですが、その芸術的センスの塩梅は人それぞれだと思うんです。ルピナさんの場合は、親近感があるセンスを持たれているように感じています。
その世界に触れたことがない、興味がない方でも、もっと知りたいかも、と思わせてくれるようなセンスなんです。それは『ミセン』のリアリティにも関わってくる気がするので、自分たちもワクワクするこの瞬間はルピナさんでしか作れない世界観だと思います。疲れているはずなのに、楽しいから稽古場が終わって欲しくないと思うほど。それは、ルピナさんのおかげです。
他にもルピナさんが凄いと思うのは、俳優が動きやすいように瞬時に選択してくださいます。主観ではなく、こちらの目線の視野まで伝えてくれるので、非常にありがたいです。言語が違うのに、こんなに全てが分かりやすいのか、とカンパニー皆んなが感じていると思います。ルピナさんと通訳のお二人を通して伝えられる言葉で、すべてが循環してスムーズに回っている、というこの場がとても素敵だと思います。
ミュージカルの歌と踊りは、いかがですか?
前田
メッセージ性のある作品を上演時間に凝縮するのは大変だと思うのですが、音楽が表現して補ってくれるので、演じる僕たちもそこに向かって、感情に向き合わなければいけないと思います。
今回は、これまでミュージカルの舞台で培ってきた感情の表現を一度捨てて、挑んでいます。歌唱指導を受け、色々と教わったことが次第に身につき、地声ではなく僕の声に合う自分らしいチャン・グレの声を開発できました。本番までこのままもっと伸ばすことができたら、表現がもっと広がると感じています。
踊りは、チャン・グレという自身の大きな幹があり、揺れ動く碁石というイメージで気持ちが揺れる様子を、ダンサーの皆さんが周りで表現してくれるように感じています。
稽古場披露で、自然な歌声に聞こえました。
前田
理想の形なので、嬉しいです。練習で培ってきたものが身についたことによって、辿り着けた場所だと感じています。
ミュージカル『ミセン』 1月9日 初日前日会見
フォトセッション/囲み取材/ゲネプロ
撮影:河上良
<Information>
新作ミュージカル『ミセン』
スタッフ
原作著者:ユン・テホ
著作権者:SUPERCOMIX STUDIO
脚本・歌詞:パク・へリム
音楽:チェ・ジョンユン
翻訳・訳詞:高橋亜子
振付・ステージング:KAORIalive
演出:オ・ルピナ
キャスト
前田公輝 橋本じゅん
清水くるみ 内海啓貴 糸川耀士郎 / 中井智彦 あべこうじ 東山光明
石川禅 / 安蘭けい
ほか
<東京公演>
2025年2月6日~2月11日
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール
<愛知公演>
2025年2月1日~2日
会場:愛知県芸術劇場大ホール
詳細は公式サイト参照
https://horipro-stage.jp/stage/misaeng2025/
公式X
@misaengmusical
主催・企画制作 ホリプロ
ⓒ Yoon, Tae Ho / SUPERCOMIX STUDIO Corp.
取材エピソードの編集後記は、こちら
photo by 近澤幸司 (Koji Chikazawa) https://www.chikazawakoji.com/
高知出身、都内在住のフォトグラファー。静止画、動画、ジャンルを問わず撮影中。
Twitter @p_tosanokoji
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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