【レポート】映画『ボレロ 永遠の旋律』公開を記念して、ベジャール版「ボレロ」を踊ることを許されたトップバレリーナ・上野水香によるトークショー開催
パリ・オペラ座で初演されて以来、時代と国境を越えて愛され続けている不朽の名曲「ボレロ」の誕生秘話を描いた映画『ボレロ 永遠の旋律』。8月9日より、TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中だ。
映画の公開を記念して8月11日にTOHOシネマズ シャンテにて、ベジャール版「ボレロ」の魂を受け継ぎ舞台で踊り続けるダンサー、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香によるトークショー付き上映が行われた。
20世紀を代表する偉大な振付家、故モーリス・ベジャールから「ボレロ」を踊ることを許され、本人に直接指導を受けた日本人ダンサーの上野水香。バレエ界を牽引する存在である上野が、映画の感想のみならず、「ボレロ」の踊りとともに積み重ねてきた思い、ラヴェルの音楽についてなどたっぷり語った。
上野水香 *トークショーより一部抜粋
私は20年間、モーリス・ベジャールさん振付の「ボレロ」を踊らせて頂いているのですが、この曲を作曲したモーリス・ラヴェルさんがどのような思いや背景でこの曲を作ったのかということはまったく知らなかったので、初めて知ることができました。「ボレロ」を踊る者としては、さらにこの音楽に対する解釈を深めるきっかけとなりました。
映画で印象に残っているのは、メイドの方が口ずさんだ流行歌からラヴェルがインスピレーションを受けたシーンです。そこから音楽が影響を受けているというエピソードは、「なるほど!」と感じましたね。だから、こんなにも、みんなに親しまれる曲なんだと思いました。
「ボレロ」の踊りは、外面的なものより、踊る人物そのものが映し出されるようなシンプルな作品なんです。だから、自分が歩んできた人生や、嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと…そんないろんなことを同時に思い出しながら踊っている感覚です。人生そのものが、私の「ボレロ」のインスピレーションなんです。
ベジャールさん振付の「ボレロ」は、まず手にのみスポットが当たって、次第に全身が浮かび上がっていき、ひとりで踊り始めるとダンサーが増え、だんだんと音やリズムを奏でる楽器が増えていきます。それはまさに音楽そのものを視覚化しているようで、踊りながら、自分が音楽そのものになっている感覚があります。
爆発的なエネルギーを持った作品だと思うので、その後のラヴェルの人生を映画で観た時に、「ボレロ」の後になかなか作曲できなくなった、ということが納得できるくらいの音楽だと思います。
踊っていても、ある意味トランス状態のような、自分を見失った感じになるんです。最後は手を差し出すんですが、それは私の中にあるものすべてのものをお客様に投げ出すような感覚です。本当に燃え尽きたような、終わったら戻ってこられないような感覚になります。皆様に拍手を頂いたり興奮してくださっているのが伝わってくると、莫大なエネルギーが私の中に入ってきて少しずつ息を吹き返すという感覚。大きなエネルギーを交換し合っているような感覚になります。
「ボレロ」の踊りに出会ったのは小学生の頃で、当時パリ・オペラ座バレエ団のエトワールだったパトリック・デュポンさんが踊る映像をビデオで観たことがきっかけです。その後大人になってから、東京バレエ団の上演で、高岸直樹さんと首藤康之さんが踊っている「ボレロ」を観て、これはやはり本当に凄いと思ってなぜか自分も踊りたいと思ったんです。
踊る嬉しさから、怖い、嫌だと変化した時期も正直ありました。若い時には、絶対に私だけに見せられるものがあるという自信があったのに、やはり凄い方々が踊ってきた作品なので、あの自信はどこに、というくらい難しいと感じていた時期が長く、悩んでいました。
でも、作品を踊って積み重ねていくうちに、音楽が自分の身体の中に入っていくんです。そうなると、“自分だけが出せるもの”や、ベジャールさんから教わった作品の精神などが次第に表現として可能になってきました。だから、人生を歩むことと、踊りのキャリアを重ねていくことで初めて成長できる、その人だけの世界が生まれてくるんだというのが、踊ってきたこの20年で感じたことです。
音楽を感じながら、ベジャール作品「ボレロ」とずっと向きあってきた上野水香。この映画を観てラヴェルの作曲に秘められた彼の人生を知り、8月31日・9月1日に東京・渋谷のNHKホールにて「東京バレエ団 60周年祝祭ガラ ダイヤモンド・セレブレーション」(NHKホール)で魂の「ボレロ」を踊る。
かつて自身もダンサーであった本作の映画監督は、『ドライ・クリーニング』でヴェネチア国際映画祭の金オゼッラ賞に輝き、『ココ・アヴァン・シャネル』や『夜明けの祈り』でセザール賞にノミネートされたフランスを代表する実力派アンヌ・フォンテーヌ。主人公ラヴェルを演じるのは、『黒いスーツを着た男』(2012)などのラファエル・ペルソナ。心身ともに繊細なラヴェルがその才能と人生を振り絞って音楽を生み出す光と影の姿を表現した。彼に芸術的なインスピレーションを与えて、作曲の影響を与えた、数々の素敵な女性たちとのエピソードも見逃せない。
芸術に身を捧げ、人生のすべて、自身の魂と精神を注ぎ込んで傑作「ボレロ」を作り上げたラヴェル。あの名曲に秘められた知られざるストーリーは、ぜひ映画館で! TOHOシネマズ シャンテ公開中ほか全国ロードショー。詳細は公式HPまで。
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<Information>
『ボレロ 永遠の旋律』
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ
BOLERO/121分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松岡葉子
配給:ギャガ
公式HP
https://gaga.ne.jp/bolero
text by STARRing MAGAZINE 編集部