安蘭けい&濱田めぐみにインタビュー!熱狂的なステージで観客を虜にしたミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』にWキャスト出演

それでも、夢を諦めなかった―― バレエに魅せられた少年の夢が、炭鉱町の希望となる

1980年代のイギリス北部の炭鉱の町を舞台に、ひとりの少年と彼を取り巻く大人たちを描き、世界中を虜にした 映画『BILLY ELLIOT』(邦題「リトル・ダンサー」)。2005年には、エルトン・ジョンの楽曲など世界最高峰のクリエイターによってミュージカル化された。2017年には日本初演、多くの声と反響を受けて2020年再演。心揺さぶる熱狂的なパフォーマンスとエネルギー溢れる舞台で、観る者の心を震わせた。演劇界からも高い評価を受け、2009年のトニー賞10部門ほか、海外国内ともに数々の名だたる賞を獲得している作品だ。

主役のビリー・エリオットを演じるのは、厳しいオーディションを勝ち抜いた4人の少年たち。今年は、応募総数 1,375名。その中から選ばれた彼らが登場する。ビリーにバレエを教える重要な役どころのウィルキンソン先生に、4年ぶりに再演からの続投となる安蘭けいさんと、初役となる濱田めぐみさんがWキャストで出演。安蘭さんは、前回出演の『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(2020)で、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞している。

実力も華もあって輝くお二人に、稽古場に入ったばかりの様子(*5月取材時)、今作への抱負、舞台人としてのお互いへの思いをたっぷり語って頂いた。ときには笑いも起きる、和やかなインタビューとなった。


本格的な稽古を前に、お二人のお気持ちは?

安蘭けい(以下、安蘭)
私は出演するのが、2回目です。子ども達自身の成長と演じている役を間近で重ね合わせて、毎日感動していた素晴らしい作品です。もし再演があるなら参加できたら、と思っていたので、本当に嬉しいです。今回のお稽古はまず踊りから始まったのですが、音楽が掛かると、身体が意外と覚えていました。4年を経てまたチャレンジしてみて、凄くエネルギーを使う作品だと改めて感じています。

安蘭けい

濱田めぐみ(以下、濱田)
最初にロンドンのトライアウト公演を観た時に、嗚咽するぐらい号泣した作品です。昨日、初めてお稽古で振付を受けたのですが、大変ですね!

演出補から役やシーンの説明を受け、「僕の言っていることはあなたのフィーリングに合っている?」と聞かれ、「私が感じているイメージを言葉できちんと整理してくださってとても助かりました」と答えると、「あなたのウィルキンソン先生を見つける手助けをするよ」と言っていただきました。まだビリー役のみんなとお会いしていないのですが、台詞の稽古もこれから始まるので、楽しみです。ここまで一人の子どもの成長をクローズアップする舞台作品は、なかなか無いと思います。演出の指示で面白かったのが、「母性を出さないで欲しい」と言われたこと。「彼女は母性のようなものを持っていないけれど、ビリーと出会うことによって、気づいて目覚めていくんだよ」と言われたときに、なるほど、と思って、今は言われたことを吸収している最中ですね。

濱田めぐみ

今回、Wキャストで同じウィルキンソン先生の役を演じることについて、いかがでしょうか。

安蘭
二人で同じ役を演じるのは、ミュージカル『サンセット大通り』以来です。また全く違っためぐちゃん(濱田)の個性が強いウィルキンソン先生を見るのが本当に楽しみです(笑)。そして、その姿に触発されて、自分も新しいウィルキンソン先生が出来上がるのではないかと思っています。

濱田
前回の舞台で、瞳子(とうこ)ちゃん(安蘭)のウィルキンソン先生を観たときに、最高のスレ感(擦れた感じ)だ、と思いました! 役特有の雰囲気が、本当にドンピシャにハマっていました。観ていても、すんなり役が入ってくるんです。そのお手本があるところに新しく入れてもらえるので、とても安心です。必死に私が稽古場でやっている姿を、瞳子ちゃんが笑顔で見ている姿が、頭にポンと浮かびました(笑)。

安蘭
予知夢(笑)? 気が遠くなるほど難しく、私も当初は苦労して覚えていたので、「絶対、大丈夫」と言われても信じられない気持ちが分かります。たぶん、めぐちゃんは今あの辺りの段階かな、と想像がつきます。

濱田
出来るようになるのかな? 

安蘭
なるの、なるの(笑)。

濱田
たぶん、あの時どうだったか、これはどう、と逐一聞いて頼りにすると思います。


個性が出る、ウィルキンソン先生の人物像

ウィルキンソン先生という人物像を作るのにあたり、現在どのように考えていますか?

安蘭
元々はバレエダンサーで生計を立てていきたいと思っていたけれど、夫は飲んだくれで、自分は妊娠をし、思い描いていた人生設計が壊れてしまったと思うんです。めぐちゃんの言うところの、擦れてしまった感じの女性ですね。家族を支えてバレエを教えていたところに少年が現れて、シンパシー(共感)を覚えたのかもしれません。そして、彼の親とも戦いながら、自分の夢も重ね合わせてバレエダンサーの夢を叶えようとするビリーを応援しています。

彼女は娘のデビーに対しても愛情はあるけれど、おそらく不器用だから愛情表現ができない。自分自身が産むと決断したけれど、どこかで夢が絶たれてしまった思いもあるのでは。デビーが男の子だったら、また違っていたかもしれず、同じ女性だからこそ母親の娘に対する思いは複雑なのかもしれません。そんな時に同じ年頃の男の子が現れて次第にバレエに目覚めてゆく姿を見ながら、先生は彼の方に愛情を注ぎたくなってしまったのかな、と考えます。

濱田
結果的にこうなりました、という役作りをする状況になりそうです。自分の中にあるウィルキンソン先生的な要素を手繰りながら、ゼロの状態から作っていきます。手がかりとしては、彼女の生き様、住んでいた環境、なぜそうせざるを得なかったのか、ということから考えたいと思います。決断をするときに、私だったらこうするけど彼女はそういう結論ではなくこちらを選択するのか、といった比較を通し、検証しながらすり合わせて膨らませていく気がします。外からはこう見えている、という演出補の話を聞きながら役を手繰り寄せて進めていければ、と思います。

私には、彼女がいつも悔しがっていて、諦められない何かが常にあり、沸々とフラストレーションが溜まっていく姿が見えています。一生懸命やっているけど、どこかキマらない。周囲が見えずにいつも必死に走っていて、とんちんかん(笑)。スタジオでも足が折れるのでは、というくらい踊って、「大丈夫!? 先生」という印象が、自分によく似ています(笑)。私も予期せぬ独自の方向に解釈して演出補に指導されることが多々あるんです。うまく役とブレンドされて、愛されるウィルキンソン先生になればいいな、と思います。

今回の稽古では、お互いが同じ役で演じる様子を見ることも?

安蘭
前回の出演時は、コロナ禍で演出もリモートで、個々に稽古をしてお互いの役の通しは見ていなくて、シーンによってはどちらかが入るなどして進めていました。

同じ役でも別グループの稽古を全く見ずに、あえて別の内容を作るといった舞台の進め方もありますが、今回はお互いが演じている姿を見ると思います。

濱田
基本的な演出は、ほぼ同じで変わらないですね。子どもたちが4人いるので(ビリー役はクワトロキャスト)、全員と演じるシャッフル感が凄くあります。

安蘭
それぞれの個性で、同じウィルキンソン先生でも、違う様に見えると思います。


ウィルキンソン先生のパワフルなナンバー、♪「Shine」

舞台写真 2020年公演より 撮影:田中亜紀
ウィルキンソン先生 安蘭けい

ウィルキンソン先生がメインとなる、楽曲「Shine」についてのイメージは?

安蘭
昨日のお稽古で、思い出すことも含めて、頭から「Shine」を私一人で通しました。細かい振りは忘れていたものの、曲がかかると自然と身体が動き、意外と覚えていました。ウィルキンソン先生という役を最初に印象づける場面なので、自分自身もエネルギーを使ってテンションを上げる必要があります。絶対的な支配力で子どもたちを動かす、という子どもたちの動きや表現(ビリーやバレエガールズも出演)も非常に面白いシーンです。久しぶりで、終わった後の疲労感が凄かったので心配しつつ(笑)、まだ3ヶ月前なので慣れていければと思っています。

濱田
実は、最初に海外で観たときは、「Shine」の場面よりも、ウィルキンソン先生が何気なくタバコを吸って通りすぎる姿に哀愁を感じ、強烈な印象が残りました。背の高い女優の方が演じられていて、その姿に「ああ、この人は夢を諦めて地元の炭鉱の町に戻ってきて、生計を立てなければいけないんだ」という彼女の生き様、悲哀がもの凄く出ていました。

ロンドン初演の本公演前のトライアウトで、作品をよく知らずに、言葉も全部は理解しきれず観ていました。それでも、それぞれのキャラクターの環境や育ちさえも分かるような、役の色味が伝わってきました。

そんな彼女の生き様が見えたからこそ、先生が本当にやりたかった夢の姿がこの「Shine」から滲み出ればいいな、と思います。ちょうど本日、稽古2日目にして振付を受けるのですが、まずは覚えなければ(笑)。


厳しいオーディションを経て

役のオファーを受ける際、オーディションが実施されたそうですね。

安蘭
オーディションがあること自体は事前に知らされていましたが、その内容は本当に厳しいものでした。

濱田
オーディションでは予め台本を大体覚えて頭に入れて、しっかり演技をするという内容でした。タップや歌、踊りに至るまで。ハードでしたね!


二人がお互いに語る、舞台人の印象

お互いから見た舞台人としての印象を、お聞かせください。

濱田
瞳子ちゃんは、舞台で絶対的な安心感があって、相手に気を遣わせないんです。私が間違っても、「あはは」と笑ってくれるハッピーなオーラを持っている。「大丈夫、大丈夫」「次、次!」と、いつもポジティブシンキングで、人に気負わせず緊張させることなく、それでいて人に対してすごく気遣いされる方ですね。

大らかでラフな印象が魅力だけれど、根が真面目な方。いつも私がついていきたくて、ついていくと案外道に迷ったりすることも(安蘭:爆笑)。先輩なのですが(笑)、そこが面白いんです。よく笑ったり、時には感動して泣いたり…。舞台以外でも、私やみんながお喋りにいくと、笑顔で迎えてくれる。綺麗で、歌も踊りもお芝居も素晴らしくて、さらに面白い。本当に全部持っています! 

安蘭
ありがとうございます(笑)。

当時、私が劇団四季のミュージカル『アイーダ』を観に行った楽屋口で面会したのが、最初の出会いでした。今ではこのような二人の関係ですが、私は劇団四季が好きで舞台をよく観ていたので、年下だけれど憧れの存在。「あの濱田さんだ!」という印象でした。

舞台の濱田めぐみさんを本当に尊敬しているし、大好きです。いかなる役であろうと、絶対に役の形を必ず舞台に残す人。彼女が出る作品はいつも素晴らしく、毎回観に行きたいと思うし、心から凄いと思っています。一緒に出演すると安心できるし、彼女の発想がとても面白いんです。先日、同じカンパニーだった『カム フロム アウェイ』の舞台でも、やはり視点の面白さがユニークだと感じました。その視点を私はいつでもキャッチしたいし、その一方で、瞬時に観客の目線で客観的に判断していることもあります。そういうところが大好きで、尊敬しています。

 

多くの作品で活躍し、傑作と名高い評判の舞台には必ずと言っていいほど、出演者に名を連ねるお二人。それぞれが作り上げる、魅力的なウィルキンソン先生が楽しみだ。


取材中のエピソードは、編集後記まで!

<Information>

Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

脚本・歌詞:リー・ホール
演出:スティーヴン・ダルドリー
音楽:エルトン・ジョン

出演
ビリー・エリオット 浅田良舞 石黒瑛土 井上宇一郎 春山嘉夢一 (クワトロキャスト)
お父さん 益岡徹 鶴見辰吾(ダブルキャスト)
ウィルキンソン先生 安蘭けい 濱田めぐみ(ダブルキャスト)
おばあちゃん 根岸季衣 阿知波悟美(ダブルキャスト)
トニー(兄) 西川大貴 吉田広大(ダブルキャスト)
ジョージ 芋洗坂係長
オールダー・ビリー 永野亮比己 厚地康雄 山科諒馬(トリプルキャスト)

【東京公演】
公演日程:オープニング公演 2024年7月27日(土)〜 8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)〜 10月26日(土)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

【大阪公演】
公演日程:2024年11月9日(土)〜 24日(日)
会場:SkyシアターMBS

公式サイト
https://billy2024.com/

 


(安蘭)
ヘアメイク:吉野麻衣子(Maiko Yoshino)

(濱田)
スタイリスト:尾関寛子(Hiroko Ozeki)
ヘアメイク:住本由香(Yuka Sumimoto)

 

photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
 

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