ダンサーの肖像・中島瑞生、新国立劇場バレエ団委嘱作品の世界初演『人魚姫』で初主演

新国立劇場バレエ団は、誰もが知るアンデルセン童話の「人魚姫」をモチーフにした新作バレエを7月に世界初演する。振付を手掛けるのは、新国立劇場でダンサーとして活躍した貝川鐵夫(かいかわ・てつお)。子どもから大人まで全ての世代に向けて新国立劇場バレエ団から発信されるオリジナルバレエは、観客が思うままに音楽や踊りを感じる、バレエの魅力が詰まった作品となりそうだ。(*敬称略)

本公演が主役デビューとなる王子役の中島瑞生(なかじま・みずき)さんに、インタビューしたのは、全幕がほぼ出来上がった頃の6月末。近年、目覚ましい活躍で輝きを増す中島さんに抱負を語って頂き、新国立劇場バレエ団の新スタジオでの撮影とともに掲載する。


本公演で主演デビュー!

最初に、主役と聞いたときに感じたお気持ちは?

びっくりしました。もちろん不安や焦りもありますが、嬉しいです。この『人魚姫』が全幕バレエで上演されるのが決まる前に、バレエ団内の振付家育成プロジェクト「NBJ Choreographic Group」で貝川鐵夫さんが人魚姫が泡となって消えていく場面のパ・ド・ドゥを創作され、王子役を踊りました。鐵夫さんに「もしこの作品が全幕作品になった時には、また王子役を踊ってもらうかも」とお話をされ、僕自身もいつかくるその時までに鍛錬を重ねて、再び主役に選んでいただけるようになろうという気持ちになりました。そういった経緯があるので、思い入れもひとしおです。


世界初演のオリジナル作品『人魚姫』

振付を手掛けるのは、新国立劇場でダンサーとして活躍した貝川鐵夫さん。新作『人魚姫』の作品に参加されて、いかがですか?

最初の段階から参加させていただきました。作る過程を見て踊ると動きや感情も変わってくるので、一から携わることは重要だと感じています。いろいろな方々の提案やダンサー側の意見、お話の流れを、鐵夫さんが試行錯誤しながら振付に取り入れてくださって、進んでいます。

4月に公開リハーサル が行われ、音楽と呼吸についての指導が印象的でした。実際のお稽古では、いかがでしょう?  

普段は、あえて呼吸にフォーカスして意識して踊ることはないのですが、呼吸すると胸が動いて、そこを動かして伝わることがある、と学びました。動く前の動機として、気持ちが動く。その気持ちに連動して呼吸が動き、胸も動くんだよ、と言っていただきました。

気持ちの流れに合わせて振付されるので、例えば感情が昂る時は振付も激しくなります。音楽とその気持ちに呼吸が入っていく、というアプローチは、確かにその通りだと思いました。

原作の童話を、改めてお読みになったそうですね。バレエ作品『人魚姫』ならでは、の点は?

鐵夫さんから、アンデルセン童話の『人魚姫』が原作だから読んでおくように、と伝えられていたので、しっかり隈なく読みました。

原作では、恋する人に人魚姫が似ているから好きになり、寝室で人魚姫にそのことを伝えるような、悪気はないがピュアで残酷なところがあります。王子はそこに全く後ろめたさを感じていません。それに比べてこのバレエでは、2幕が出来上がって結婚が町の人々に知らされるシーンを見た時に、王子は本当に人魚姫が大好きだったことが伝わりました。そして、王子は決められた人としか結ばれない、社会の不条理さも作品に取り入れているように感じました。

アンデルセンの童話は、人魚姫が泡となり、そして空気の妖精になり、徳を積むことで天国に行けるという結末で、人魚姫にフォーカスされています。このバレエ作品の最後では、人魚姫は楽しかった王子との思い出を走馬灯のように思い浮かべます。バレエは、人魚姫と王子の物語、という要素も強いのかなと思っています。

人魚姫:柴山紗帆 王子:中島瑞生
公開リハーサル『人魚姫』 撮影:阿部章仁 

公開リハーサル『人魚姫』 撮影:阿部章仁


パートナーを組む、プリンシパル・柴山紗帆さんについて

主演ペアを組む柴山紗帆さんは、公開リハーサルで、中島さんと踊るのが楽しみ、とおっしゃっていました。柴山さんの印象や踊りの魅力は?

(柴山)紗帆さんには、本当にお世話になっています(笑)。僕も、ご一緒できることが大変光栄です。

人間界に出た人魚姫は声を失っているため、伝えたいことが喋れません。未知の世界で、もどかしい思いもするけれど、強さも秘めている。その奥ゆかしくて芯のあるような今回の役が、普段の紗帆さんの印象にもつながります。舞台上では力強さもあり、強いテクニックに裏打ちされた気持ちの出し方や抑え方、強弱の使い分けが素敵だなと感じています。


ダンサーとしての歩みを振り返る

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』エスパーダ
撮影:鹿摩隆司 

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』エスパーダ
撮影:鹿摩隆司

柔らかな日差しが入る、ダンサーの方が日々の練習もされる新スタジオにて撮影

2016年に入団。これまで印象に残った役や、好きな作品を挙げるとすれば? 

僕自身が踊ることに関して感覚が変わったのは、『ドン・キホーテ』のエスパーダ役です。それまでもベンノ(『白鳥の湖』、王子の友人役)、白ウサギ(『不思議の国のアリス』、ルイス・キャロルと2役)など、演技や踊りの両方の要素がある役は踊っていたのですが、例えばベンノは踊る時はパ・ド・トロワ(3人の踊り)、演技ではバレエのパ(ステップ)はない、といったように明確に踊りと演技が分かれています。しかし、エスパーダ役は、スペインの闘牛士という強いキャラクターも相まって、登場のシーンでは街で色気を振り撒きながら「俺って格好いいだろう」(笑)と、踊る必要があります。一つ一つの動きに対して、自分の感情を出しながら、踊ることへの気づきがありました。テクニックのみに必死になるだけではなく、今回の『人魚姫』の作品もそうですが、気持ちが動くから自然と手が出て、振りにつながる…という感覚を覚えた役です。

ダンス作品でも、ナチョ・ドゥアトさんの『ドゥエンデ』、上島雪夫さんの『ナット・キング・コール組曲』、平山素子さんの『半獣神の午後』などを踊らせていただいています。僕の家では、両親が「悲愴」「熱情」「月光」といったベートーヴェンのピアノ・ソナタを毎日BGMのようにかけていたので、中村恩恵さんの『ベートーヴェン・ソナタ』という作品も凄く好きでした。ペートーヴェンの音楽と一緒に踊るのは、とても幸せなことでした。入団して初めてオーディションで選ばれてキャスティングされ、新制作の創作に最初から携わることができた初めての経験だったので、印象深い作品です。

バレエ団で言われるご自身の長所やアドバイス、気づかされたことはありますか?

ある公演で、ステップを大きく踏んでダイナミックに跳ぶ、という指導を受けたときに、僕としては精一杯踊ったつもりだったのですが、その様子を吉田都芸術監督が見ていて、できていないよと言われたことがありました。その時に、いくらやっているつもりでも観ている人に伝わらないなら、やっていないのと同じなんだとわかりました。この稽古場の距離でわからないなら、劇場という広い空間で観ているお客様には何も伝わらないと改めて気づき、言われたことを最大限に消化して、体現することを心掛けるようになりました。

新国立劇場バレエ団『アラジン』エメラルド 
撮影:鹿摩隆司
『アラジン』のエピソードはこちら


美的センスが養われた、中島さんの「美」の秘密


美しいものは、お好きですか?

そうかもしれません。元々、母の教育で幼少から美術館で絵を見ていました。そのうちに、この絵はどういう意味なのだろう、と興味を持つようになりました。例えば、自分が好きな西洋の宗教画に込められたモチーフや色合いが表す意味や、手に持っている道具によってどういう人物を描いているのか、そういうことが分かるようになると面白いと感じていました。音楽は、クラシックを幼少から家で聴かされていたので、自然と綺麗なものが好きになるような教育はされていたかもしれませんね。今回の『人魚姫』は、有名で綺麗なクラシックの曲の数々が使われているので、僕もテンションが上がり、踊っていて気持ちがいいです。

細身で筋肉がついた均正のとれた体型は、ご自身で何かスタイル作りをされていますか?

元々が細いタイプで、どうしても忙しいと痩せてしまうため、目標体重を決めて近づくようにし、パワーを出せるように食事にも気をつけています。ダンサーは跳ぶため、脚には筋力がつきやすいのですが、上半身はトレーニング不足になりやすい気がします。女性と組んでリフトするパ・ド・ドゥでも、本番できちんと力を出せるように、パーソナルトレーニングもしています。体幹を鍛えるピラティス、ジャイロトニックのエクササイズは、バレエの技術を補助する意味合いでスタジオに通っています。

オフは、ファッショナブルなイメージ。一眼カメラの撮影も、楽しんでいますね!

最近、忙しくてあまりショッピングができていないのですが、服は元々好きです。普段は、好きな洋服を着るようにしています。着る洋服によって自分のスタイルが変わって見えますし、バレエにも通じるところがあると思います。本人の肉体のラインが出るバレエ、服を纏った時に出るライン、どちらも綺麗に見せるという美を追求する、美学だと思います。

バレエ団の仲間に勧められて、ミラーレス一眼カメラの撮影を始めました。撮影スタジオでセルフポートレートを撮ったりもしますが、いつか他のダンサーを撮ってみたいです!


夢と目標

今後の夢は?

もっと日本でバレエを観に来てくれる方が増えると嬉しいと思っています。「一度、バレエを観てみよう」という最初の入口を作ることに、僅かながら何か自分が力になれればとても嬉しいです。バレエファンの方々でも、バレエを観たことがないという方でも、気軽に観に来てくれる人が増えるよう、自分も頑張りたいです。

ダンサーとしての目標は、他の作品でも主役を踊ってみたいですね。もちろんテクニックをさらに磨いていく必要がありますが、やはり主役を踊るというのは、物語の中心なので、演技的な面は非常に大事だと考えます。少しずつ主要な役での演技の経験を積み重ねてきているので、そのような経験をもっとたくさん体験してみたい、トライしてみたいなと思っています。


2022年ファースト・アーティストに昇格、本公演が主役デビューとなる中島瑞生さん。さらに進化する今後が楽しみだ。中島さんも出演する公演は、下記の公式サイトをチェック!

取材エピソードの編集後記は、こちら

<Information>

新国立劇場バレエ団

こどものためのバレエ劇場 2024
『人魚姫』~ある少女の物語~
 <新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>

Ballet for Children 2024
Story of a Little Mermaid

期間:2024年7月27日〜7月30日
会場:新国立劇場 オペラパレス

日程詳細、チケット情報は公式サイト参照
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/littlemermaid/

 

photo by 近澤幸司 (Koji Chikazawa)  https://www.chikazawakoji.com/   
高知出身、都内在住のフォトグラファー。静止画、動画、ジャンルを問わず撮影中。
Twitter @p_tosanokoji

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 

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