柿澤勇人が、彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.1『ハムレット』のタイトルロールを演じる!
彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督のバトンを故・蜷川幸雄から引き継ぎ、シェイクスピア全戯曲の上演を2023年に見事に完結させて観客を沸かせた吉田鋼太郎。2024年5月、その吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)が新たに立ち上げる【彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd】第一作『ハムレット』が幕を開けると共に、新たな伝説が始まる。
記念すべき作品のタイトルロールに選ばれたのは、大役のハムレット役に挑むことになる柿澤勇人。演出の吉田鋼太郎がクローディアス王役、北香那がハムレットの恋人・オフィーリア役を演じる。
(*敬称略)
第31回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞し、舞台、映像と目覚ましい活躍をして多忙を極める柿澤勇人さんに、心境をインタビューした。
吉田鋼太郎さんから指名、「ハムレットが見えた」
吉田さんに「ハムレットが見えた」と声をかけて頂いた、と2月製作発表記者会見でお話されました。その時のエピソードをお聞かせください。
鋼太郎さんご自身も、以前ハムレット役を演じていらっしゃいます。その際に、命懸けで挑まれて、結果として栄誉ある受賞もされ、おそらく『ハムレット』という作品はご自身の役者人生を変えた一作なのだと思います。そういった話をずっと伺っていたので、「カッキー(柿澤さんの愛称)なら、やれるよ」と最初に言って下さった時は嬉しかったですね。
ただ、ハムレットという役は、普通に演技が出来るだけでは務まらない大役。舞台の隅々まで声を届けなければいけない、膨大な台詞をマシンガンのように喋って、悩んで、のた打ちまわって…最後にはフェンシングで決闘。全身の細胞を駆使して、膨大な言葉を伝えなければならないので、なかなか演じられる俳優がいない、ということも聞いていました。
3年ほど前にご一緒した『スルース~探偵~』という二人芝居の大千穐楽の終演後に鋼太郎さんから「カッキーのハムレットが見えた」とおっしゃっていただき、尊敬する鋼太郎さんにそう言ってもらえたことが凄く嬉しかったことを鮮明に覚えています。
でも、上演台本が出来上がって読み始めると「ああ、これを演じるのか」と怖くなりましたね。非常に大きな労力ともの凄いエネルギーを必要とする作品です。
正直なところ、いまは全く楽しみではないのですが(笑)、少しでも楽しんで演じられればいいなとも、思っています。
吉田鋼太郎さんは、柿澤さんにとってどんな存在の方ですか。
鋼太郎さんは厳しくもあり、優しい人だと思います。いつも芝居のことしか考えていない方です(笑)。常にご自身がお持ちの様々な才能や出来る活動を模索されて、トレーニングも欠かさず、舞台や演劇を愛して…という印象です。これまで数々の厳しいご経験もされた上での現在だと思いますので、こちらも生半可な気持ちではご一緒できないと思っています。覚悟を決めていないと見抜かれて、芝居がフィットしていないとすぐに察知される気がしています。ですが、演出家でも役者でもあるので、役者の気持ちを大事にしてくれる方、そんなイメージです。
普遍的なシェイクスピア作品
今回のプロダクションに限らず、柿澤さんはシェイクスピアの作品をどのように感じていますか。
作品にもよりますが、シェイクスピアの作品はテーマや流れているメッセージが普遍的で、それがとても深いと思っています。だからこそ、国を超え、時代さえも超えて、観るものの心を打つ作品が多いと感じています。
僕はこれまで何作品もシェイクスピア作品に出演しているわけではなく、ストレートプレイでいえば『アテネのタイモン』、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』に参加しました。ミュージカルは言葉が歌になる部分がありますが、ストレートプレイのシェイクスピア作品は、役者が膨大な量の台詞を観客に届けるような作品が多いという印象です。
ですから、映画や映像で喋るような、いまお話ししているようなテンションや声では、本当に何も伝わりません。疲弊はするだろうけれど、その分大きなやりがいを感じられると思います。
今回の台本を、お読みになっているそうですね。
すでに受け取って、読んでいます(*2月取材時)。作品の戯曲をそのままノーカットで上演すると4時間を超えるほどの超大作なので、鋼太郎さんがどこの部分をカットするか、といった調整がされています。
ハムレット役に挑む!
吉田さんの演出で役作りはこれからだと思いますが、現時点でハムレットの魅力や、逆に嫌な部分といった人物像はありますか?
優しくて、頭も良く、父と母に対して異常なほどの愛情を持った人物だと思います。だからこそ裏切りが露呈した時に復讐を試みるのだと思うのですが、なかなか復讐をしないので(笑)、優柔油断な人間だと言われることもあります。いまのところは、とても優しい王子といった印象です。
ハムレットで嫌いな部分は…喋り過ぎなところですね(笑)。どんなニュアンスで喋るのか疑問に感じる箇所もありますし、それがシェイクスピア作品の大変で面倒くさいところでもあり、同時に面白さでもあると思います。
恋人オフィーリアに対して、辛辣な場面も。
どういう意味なのか、まだ模索しているところです。気が触れたと装っているのか、本当にそうなのか。演技しているなら理由は何か、まだ探している最中です。嘘か本気か、どちらなのだろうと思います。
今回のキャッチコピーには、ハムレットの印象的な言葉が使われています。どのように感じますか?
「いまの世の中は関節が外れている、それを正すべくおれはこの世に生を受けたのだ」
もし、ハムレットが即位していれば、国はもっと豊かになったかもしれません。しかし、クローディアス王の元では、民衆たちは本当の意味で幸せを得てはいません。だから、ハムレットは「俺が正そう」という想いが、根の部分にきっとあるのだと思います。皆から気が触れたと言われるハムレットだけれど、ハムレットからしたら、本当におかしいのは自分以外の人たち、という感覚なのかもしれません。
新シリーズが、ついに始動
共演者のお名前を最初に聞いた印象は?
新鮮なメンバーだと感じました。僕が前回、彩の国さいたま芸術劇場でシェイクスピア・シリーズに初参加した『アテネのタイモン』では、カンパニーの多くが“蜷川組”と、鋼太郎さん主宰の劇団の方々でした。今回は全く違う色の共演者です。
オフィーリア役を演じる、北香那さんの印象はいかがでしょう?
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演した際に、近い関係性だったので、その時の印象が一番強いですね。誠実で柔らかく、でも芯の部分があり、芝居が好きだということがよく伝わってきました。だから、この方なら信じて芝居ができる、自分を預けることができる、と思っています。
全身全霊、これまで全ての経験を活かして
舞台は『ジキル&ハイド』『スクールオブロック』『オデッサ』、映像は『鎌倉殿の13人』(NHK)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)など、近年だけでも数々の話題作に出演されています。多岐に渡る役を演じる上で、常に心がけていることは何かありますか。
こうしたい、というのは演じながら生まれてくることもありますし、演出家によって現場で求められることも違うので、そこに応えられるようにと常に思っています。
結局は、自分の中にあるものが演じることにも投影されると思います。そこに実感を得ていないと口に出すこともできないし、自分がこれまで生きてきて感じたこと、想像力も含めて出来るだけ多くを台詞に乗せることができれば、と考えています。
作品ごとにするべきことがある場合は、ひたすらその練習をします。『スクールオブロック』ならギターの演奏、『オデッサ』では慣れない鹿児島弁と英語の台詞を、受験生のようにとにかく反復練習しました。
『ハムレット』に関しては、いかがでしょう?
とにかく台詞を頭に入れるだけ入れて稽古に臨む、そして想像する、ということだけですね。現在は他公演の本番中ということもあり時間がなかなか取れませんが、終わったらしばらく時間があるので、準備をして、何よりも健康に気をつけて稽古に入っていきたいと思います。
キャストコメントで「全身全霊で挑む」という意気込みをお話しされています。これまでの活動の経験が活かされる感触がしますか?
今までの現場で得たものは、沢山あります。
台詞を客席に届けるというベースは劇団四季で学び(*2007年 劇団四季『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー)、身体の向きなどを工夫して感情を実際にどのように台詞に乗せるのかというのは蜷川さんに教わりました。これまでの舞台全ての経験に加えて、今回は膨大な台詞を理解して演じる知性が必要だと考えています。
おそらくそれだけでは足りなくて、僕が生きてきて子ども時代に何を思ったか、母に対して、父に対してどのように何を感じたか、などをプラスして役に投影していきたいと思っています。
今年3月1日にリニューアルオープンを迎えた、彩の国さいたま芸術劇場での上演も話題の舞台『ハムレット』。
演出を手がける吉田鋼太郎さんは「シェイクスピアが書いた36本の戯曲と『ハムレット』とで分けられる、それくらい特別な演劇の最高峰と呼ばれている作品」と製作記者会見で語り、あえてその理由を明かさなかった。なぜ、世界最高峰と呼ばれているのか、5月の開幕が待たれる!
取材中のエピソードは、編集後記まで!
<Information>
彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』
期間:2024年5月7日(火)~26日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
作:W.シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出・上演台本:吉田鋼太郎 (彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
美術:杉山 至
照明:原田 保
音響:井上正弘
衣裳:紅林美帆
ヘアメイク:大和田一美
音楽:武田圭司
殺陣:六本木康弘
フェンシング指導:和田武真
パントマイム:いいむろなおき
振付:藤山すみれ
演出助手:井上尊晶
舞台監督:大垣敏朗
技術監督:福澤諭志
<キャスト>
柿澤勇人
北 香那
白洲 迅
渡部豪太
豊田裕大
櫻井章喜
原 慎一郎
山本直寛
松尾竜兵
いいむろなおき
松本こうせい
斉藤莉生
正名僕蔵
高橋ひとみ
吉田鋼太郎
宮城、愛知、福岡、大阪のツアー公演あり。詳細は公式サイト参照
公式HP
https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024/
主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
制作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ
スタイリスト:ゴウダアツコ
ヘアメイク:大和田一美
photo by 近澤幸司 (Koji Chikazawa) https://www.chikazawakoji.com/
高知出身、都内在住のフォトグラファー。静止画、動画、ジャンルを問わず撮影中。
Twitter @p_tosanokoji
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。