新国立劇場バレエ団 池田理沙子&速水渉悟にインタビュー!「シェイクスピア・ダブルビル」『夏の夜の夢』出演の抱負、お互いの素顔や踊りを語る(前編)
出演日
4月30日(日)・5月3日(水・祝)・5日5日(金・祝)
ティターニア(女王)池田理沙子 / オーベロン(妖精の王)速水渉悟
新国立劇場バレエ団2022/2023シーズン「シェイクスピア・ダブルビル」。本公演は、シェイクスピアの戯曲をもとにした作品『マクベス』『夏の夜の夢』の二本立てを、新制作バレエで上演する話題の舞台。
『夏の夜の夢』は、英国バレエの雰囲気、妖精が登場するファンタジックな世界観、難易度の高いフレデリック・アシュトンによる美しい振付、メンデルスゾーン作曲の素晴らしい音楽など魅力たっぷりの作品だ。
今回、女王ティターニア役と妖精の王オーベロン役を踊る主演キャストの池田理沙子(いけだ・りさこ)さんと速水渉悟(はやみ・しょうご)さんにインタビュー!
2022/2023シーズン開幕公演『ジゼル』で主役のジゼルとアルブレヒトを組んで踊り、さらに1幕のペザント パ・ド・ドゥを共に踊ったフレッシュなペア。無観客ライブ配信から2年ぶりの再演になった『コッペリア』でも主役を演じた注目のお二人に『夏の夜の夢』出演の抱負、これまで組んだお互いの踊りの印象、普段の稽古場での姿、今後の夢などをインタビューした。前編・後編を通して掲載する。
お互いの踊りの印象
これまでの舞台を振り返り、一緒にペアを組んで踊った印象やエピソードはいかがですか。
池田理沙子(以下、池田)
本格的に組んで踊ったのは『ジゼル』が初めてです。踊りの面においてもですが、コミュニケーションを通じて丁寧に一つずつ一緒に作り上げられるパートナーです。『ジゼル』の時は、主役の他にペザント(農民)のパ・ド・ドゥも二人で踊らせていただいて、毎日(速水)渉悟くんとずっと一緒でした。絶大なサポート力があり、支えてもらっています。
速水渉悟(以下、速水)
逆なんです(笑)。(池田)理沙子さんとはいろいろな作品で踊らせていただいているのですが、いつも頼ってしまっています。僕が実はサポートされています(笑)。
『ジゼル』で本格的に組みましたが、最初からとても踊りやすいパートナーでした。おそらく理沙子さんは、パ・ド・ドゥのテクニックがとても上手なのだと思います。
池田
そういう風に踊りやすいと言ってくれますが、私も同じように、彼のタイミングに合わせているだけなんです。あうんの呼吸のようにお互いのタイミングが分かり合えている感じがしています。
踊りやすさは、常に感じますか。それともリフトなどのテクニカルな要所要所のポイントで思われるのでしょうか。
速水
おそらくですが、二人の持っている感覚が似ているのでは、と思います。振りの入り方やタイミングも、あまり考えなくてもお互いに合うような気がしています。例えば、僕が深いプリエ(膝を曲げる動き)をしている時に理沙子さんも同じように深くしているなど、本来は人それぞれの感覚のはずなのですが、その感覚が近いのかなと。身長の相性などもあると思います。
池田
例えばこのタイミングで飛ぶ、などテクニカルなポイントはもちろんあるのですが、リハーサルを重ねるうちに「きっと今ここらへんにいるんだろうな」など空気感で分かる感触があります。
タイミングが合うということは、コミュニケーションをたくさん交わす良い関係性が出来ているということだと思っています。
『ジゼル』では、コミュニケーションを重ねましたか?
速水
『ジゼル』はアクティング(演技)が多いバレエです。例えば、『シンフォニー·イン·C』(バランシン)や『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』など、踊りそのものが重要視される作品がある一方、アクティングに重きがある作品はどうしても物語を作り上げるための話し合いが必要になります。
池田
『ジゼル』でも振付が決まっていますが、ペアごとでニュアンスや雰囲気も変わるので、たくさん話し合いをしました。アイコンタクトであったり、手をとるタイミングであったり、細部で雰囲気が変わってくるんです。細かいところまで渉悟くんと話し合って進められたのは非常によかったと思っています。
口頭では、どのような話し合いをされますか。
池田
例えば、『ジゼル』だったら出会いのシーン。半歩後ろなのか前なのか、アルブレヒトの立ち位置によってジゼルの踊り方も変えたいと思うし、ほんの一歩がどこのポジションにつくか少しのタイミングで、全体の雰囲気やニュアンスが変わってきます。
速水
本当にそうなんです(頷きながら)。
池田
役の心情をふまえて、このときはこういう心情だからこの動きをするか、逆にしないのか、たくさん話し合いをしました。
『ジゼル』では、ペザントのパ・ド・ドゥも踊られました。大変でしたか?
速水
ペザントのパ・ド・ドゥもとてもやりがいのある役ですが、『ジゼル』の主演と同時に配役されたという意味でもチャレンジングでした。リハーサルは毎日あるので、ジゼルの次はペザント、次は全体と合わせる、といった日々で、僕にとって初めてのアルブレヒト役は時間をかけていろいろ考えなければいけないのに時間に追われて大変でした。
池田
振付が体力面や技術面でも男女共にハードでしたが、特に男性は大変だったと思います。(速水:いやいや女性も、と首を振る)
『ジゼル』の最後のシーンの次にペザントをリハーサルすることもあり、スイッチの切り替えの勉強にもなった貴重な経験でした。
「シェイクスピア・ダブルビル」『夏の夜の夢』出演について
現在、練習が進んでいるなか、作品や役の感触はいかがでしょうか(*取材は3月末)。
池田
踊るにあたって、最初はアメリカン・バレエ・シアターや英国ロイヤルバレエの作品映像を観ていたのですが、監督(吉田都舞踊芸術監督)から今回はオリジナルに忠実にやりたい、というお話がありました。それからは映像を観ず、指導で来日されているコイル・グラントさんやクリストファー・カーさんが教えてくださるアシュトンスタイルを忠実に踊ることを心がけています。
ティターニアは初めて挑戦する役ですが、女王なので威厳や気品の高さはもちろんですが、それに加えて吉田監督からキーワードとして仰っていただいたのが「クレイジーさ」です。
面白そうですね!
池田
綺麗に始まるパ・ド・ドゥも途中で荒々しくなる部分があり、ティターニア役にはそんなクレイジーなところが求められると思うので、二人で一緒に踊るなかでそんなところも見つけられれば、と思っています。
速水
歴史のある作品で、音楽も本当に素敵だなと思っています。僕にとっては難しいですが挑戦だと思って楽しむようにしています。理沙子さんとでなければ出来ないのでは、と思うほど助けていただきながら練習しています。
パ・ド・ドゥも本当に難易度が高くて、理沙子さんは何の問題もない感じで黙って踊られるのですが、後で「どうでした?」と聞くと「あそこがちょっと」みたいな(笑)。いつもそのような感じで進んでいます。きっと彼女は身体の軸がブレず、体幹が強いんだと思います。それは、本当に凄いところだと感じています。
池田
完全に男性のパートナーに任せた方がやりやすい動きの部分と、女性が自立していなければどうしても成り立たない振付がたくさんあるので、それこそ渉悟くんと、どちらがリードして踊っていくか、ということを話し合うこともあります。
特に、オーベロン役はスタミナが必要で、もの凄く大変だと思います。難しいソロを3本踊った後にパ・ド・ドゥなので、体力面もきついと思います。
速水
ずっと踊っている役なので、スタミナがぎりぎりです。足りていないかも。
昔の映像はレジェンドのダンサーのものばかりなので、観る分には簡単に見えていたのですが、いざやってみようとすると本当に難しいことが分かりました。全ての音に振付が決められていますし、ほぼずっと舞台に出ていますのでいかに体力を持たせるかも重要です。毎日の練習を重ねて慣れていき、身体に覚えさせた方がいいと思っています。
池田
フレデリック・アシュトンの場合、『シンデレラ』の振付もそうでしたが(池田さんは2016年入団後、同年『シンデレラ』で全幕主役デビュー)、一音一音全てに振付が入っていて、音楽性との結びつきがかなり重要視されている作品だと感じます。だからこそ、音にハマった時は気持ちよく、作品の重みが出る構成なのでは、と思って練習しています。吉田監督からも、何度も繰り返して身体に踊りだけでなく音楽も一緒に染み込ませるように、と言われています。
アシュトンの特徴である、軽やかな足さばきをクリーンに見せていくことも重要です。腰の位置を変えずに上半身をツイストするエポールマンという上半身の使い方も、「アシュトンスタイル」のひとつ。より踊りを立体的に見せるようにと指導を受けています。
今回の『夏の夜の夢』は、2キャスト制。お互いの踊りをご覧になりますか? *別キャスト ティターニア役 柴山紗帆 / オーベロン役 渡邊峻郁
池田
いまも一緒に、リハーサルをしています。
速水
全然違う印象です。ガラッと舞台の雰囲気が変わると思います。
<Information>
新国立劇場バレエ団 2022/2023シーズン「シェイクスピア・ダブルビル」
日程:2023年4月29日(土・祝)~5月6日(土)全7回公演
会場:新国立劇場 オペラパレス
公演情報はこちら
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/shakespeare-double-bill/
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki) http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。