次の段階へと進化する藤原竜也が挑む、待望のマクベス役! 新シリーズ注目の第二弾、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』
彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督のバトンを故・蜷川幸雄から引き継いだ吉田鋼太郎が2024年5月より新たにスタートした、【彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd】の2作目『マクベス』。(*敬称略)
主演を務めるのは、藤原竜也さん! 観客も待ち望んでいた「藤原マクベス」との期待も高く、作品のタイトルロールを演じることになった思いをインタビューした。
蜷川幸雄さんの演出で鮮烈なハムレット役を21歳で初めて演じ、今回は遂にマクベス役を演じます。ご自身では、どのように感じていますか?
5月に43歳を迎える非常に良いタイミングで、マクベス役に巡り合えたと思っています。
しかし、やはりシェイクスピアは一筋縄ではいきません。今回の舞台は「藤原マクベス」ではなく、「吉田マクベス」だと思っています。自分の存在とは、世界とは、宇宙の存在とは何かを問われているような戯曲です。
シェイクスピア作品なら普通はロミオ役から始めるところを、蜷川さんは人知を超えた解釈をする方なので、僕はいきなりハムレット役でした。当時は、演じるには自分は若く、年齢を重ねれば解釈が相応にできて当然だと思っていました。しかし蓋を開けてみれば、ハムレット役を演じるにも良い時期だったと思います。
稽古は本読みを終えた段階、と伺いました。『マクベス』で、新しい発見はありましたか?
僕が知る限り、シェイクスピア戯曲で最短の作品です。マクベス、夫人も含めて全ての人生が3時間弱程度に凝縮されています。それがジェットコースターのような流れを経て、人物、ストーリー、世界の核心に迫っていきます。
冒頭の瞬間から魔女の誘(いざな)いによって、全ての歯車がすでに狂っていて、スコットランド王のダンカン殺しから始まります。
もう「吉田マクベス」が、大変! 吉田鋼太郎さんの求める解釈、熱量が凄いです。大変ですね、このままやり続けたら(笑)。
でも、とても面白いです。『マクベス』という作品で起きていることは、残虐で、現代における世界の独裁者や紛争と一緒で何も変わらない。人生が回らない、時代が先に進まない、非常にめちゃくちゃな状況だけれど何故そうなったのか、当然の結果でもそこまでの破滅になぜ追い込まれたのか、という壮大なストーリーがシェイクスピア作品に書かれていると思います。それは、我々が何の進歩もしていないのではないか、というところに行き着きます。
『マクベス』の台詞については、いかがですか?
「よし、来たか!」という感じ。頭の中で想像していた台詞を、自分が実際に言う年になったのかという気持ちです。「Tomorrow Speech」と呼ばれる有名な台詞にしても、世界中で知られています。それを自分が口に出しているのは、不思議な気がします。「明日、また明日、また明日」なんて、マクベス格好いいな、どう言おうかなと思っていました。でも、稽古場に入ったらあまりにも大変で、そんなことはどうでも良くなりました(笑)。
言葉、言葉、言葉なんです、シェイクスピア作品というのは。演劇、芝居、演技はどれもそうだと思いますが、言葉が全てであって、正解はこの書かれた戯曲にしかありません。ですから、我々はこの壮大な、世界が一瞬で変わる演劇にお客様を惹き込まなければいけない、台詞を的確に伝えなければならないと思っています。
マクベスは、避けて通れない大事な役
役者人生を振り返り、巡り合うべくしてマクベス役に辿り着いたと思いますか?
言い方はとても難しいですが、多くの人はこの役を「役者冥利につきる」「よし、やってやろう」「どんな風に表現しよう」と役者ならば多分考えると思うんです。でも、僕としては、避けて通れるなら、避けて通りたかった道であり、そういう作品です。
でも、俯瞰で見ると、避けて通れなかった道であり、絶対的に大事な役だという声も一方で自身に聞こえています。もっと違う楽な道を歩んでみたいという気持ちはあるけれど、これまで楽をして来なかった人生なので、もう腹を括っています。だから、マクベスを何とか成立させようと今も稽古の最中なので、もがいてもがいて、そんなところも見せながら自分なりに解釈して進めていきたいと考える、非常に大きな役です。
藤原を次の領域へ。きっと吉田鋼太郎さんは蜷川幸雄さんと同じ思い
吉田鋼太郎さんが手掛ける演出の凄いところは?
的確で、非常に細かいです。テーブル稽古と呼んでいますが、この言葉を台本で強調する、こういう表現だからここにブレスを入れる、といった細かいことをカンパニーの若手に至るまで丁寧に教えています。そのような全ての稽古をつけて、その後に、立ち稽古に入ります(*3月取材時)。
他にはないような独自の演出であり、しかも蜷川イズムを見事に踏襲し、尚かつ自己の主張が感じられます。あそこまでの表現は誰もできない位に役者としても本当に巧くて、なにより演出が「なるほど、そうきたか!」と自分が叶わないと思える程の解釈です。時には脱線し、突拍子もない方向に行くこともあるけれど、また収まるべく解釈されて、それこそが芝居だと思います。持つエネルギーと芝居への熱量が抜きん出ている感じの、日本のシェイクスピア作品においてトップクラスの演出をされる方だと思います。
舞台は、非常にシンプルで役者を際立たせてくれる作品になると思います。シェイクスピア作品が、より見やすい芝居になるといいなと思います。
もし蜷川幸雄さんが、マクベス役を演じることになった藤原さんに声をかけるとすれば、どのような言葉だと想像しますか?
演劇に関しては、蜷川さんが言うとしたら、どうだろうなと常日頃から僕はずっと思ってやっているんです。蜷川さんだったらこれは違うと言うかな、今のはダメだったな、対応しきれてないな、と自分の中でバランスをとりながら常に考えています。
だから、吉田鋼太郎さんが僕に凄く口うるさく(笑)演出稽古を付けてくれるのと、そう変わらず一緒だと思います。それは、藤原を次の領域に持っていきたい、変化を付けさせたい、これまでやってきたことと違うマクベス役をお客様に見せる段階だということ。今回の演劇だけにとどまらず、もっと世界情勢を踏まえた、もっともっと違う人物を造り出したい。その為には「ここで立ち止まってはいけない、ダメだ」と言うことを言われているのではないかと思います。
マクベス役と、以前演じたことのあるハムレット役との違いは何でしょう。
実は、あまり違いは無いんです。ハムレットは、「お前は誰だ」「自分は何者だ」「母親とは」「父親とは」「世界とは」「宇宙とは」と、次々に段階を経て自己アイデンティティとは、台詞で言えば「雀一羽落ちるのにも神の摂理がある」この世界とは一体何なんだろうと、白熱しながら最後まで突き進んでいきます。
『マクベス』の場合は、その究極の盛り上がりが、冒頭にきてしまうようなものです。マクベス自身が、王殺し、よし決めたと。作品の構成としては、あっぱれだと感じています。存在自体がわけのわからない(吉田鋼太郎さんが演じる)魔女が登場し、最初の盛り上がりから崩れ落ちていく話です。
純潔さを感じる、土屋太鳳さんのマクベス夫人
共演者でマクベス夫人を演じる、土屋太鳳さんの印象は?
僕が言うのもおかしいのですが、今回の作品が太鳳ちゃん自身の人生における経験の蓄積になる瞬間であってほしいと願っています。この「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」に出演してくれるのも嬉しいですし、本当に努力家です。模索しながら、自己を解放していく姿が美しく、皆さんが思うイメージのままの素敵な人です。
個人的にはマクベス夫人というと、僕がこの作品で観たことのある大竹しのぶさんのようなイメージがあります。太鳳ちゃんのマクベス夫人は、純潔さがあり、根っこからの悪女ではないピュアで等身大の姿を感じます。王のために、家族のために、より高みを目指そうという演じ方だと思います。
取材エピソードの編集後記は、こちら
<Information>
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2
『マクベス』
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
日程: 2025年5月8日(木)〜25日(日)
作:W. シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出・上演台本:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
音楽:東儀秀樹
出演:
藤原竜也
土屋太鳳
河内大和
廣瀬友祐
井上祐貴
たかお鷹
吉田鋼太郎
ほか
ツアー公演情報
【宮城公演】5月30日(金)~6月1日(日) 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
【愛知公演】6月6日(金)~8日(日) 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【広島公演】6月12日(木)~14日(土) 広島文化学園HBGホール
【福岡公演】6月20日(金)~22日(日) 福岡市民ホール 大ホール
【大阪公演】6月26日(木)~30日(月) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/macbeth2025/
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
【SNS】 STARRing MAGAZINE
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