上野水香×町田樹×高岸直樹 3人の稀有なアーティストにインタビュー! Pas de Trois Encore 2025 《バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲2》(後編)
上野水香に聞く! 《Pas de Trois Encore 2025》
《献呈》 音楽:シューマン=リスト編曲/振付:町田樹
上野水香
町田樹さんが上野水香さんに振り付けた《献呈》は、1年を経て違う感覚になりそうですか?
上野水香(以下、上野)
小説などもそうだと思うのですが、人生のその時々で読むと違う感想を持つことがあると思います。時を経ていることで、確実に変わる何かがあり、踊る感覚も変わります。今の感覚でしかできない踊りであることは、間違いありません。同じ公演でも1回毎の踊りで感覚が違うので、芸術というのは本当にいろんな可能性を秘めていると感じています。今回の《献呈》でも、その広がりが出せればと願っています。
フィギュアスケート界出身の町田樹さんと、実際にバレエの舞台で共演した感想は?
上野
町田さんは世界の第一線で戦って来られた元日本代表のフィギュアスケーターであり、その後10年間バレエを学ばれて、バレエダンサーとしては昨年の公演が初めての舞台でした。ですが、踊りに対する感性を反映する力が強くて、プロのダンサーでもこれ程の人はいないのではと思うレベルで凄いんです。一緒に稽古をし、振り付けてもらいながら、本当に踊り心が素晴らしいと感じています。今回の舞台では、さらに強くて深い踊りの姿を見せてくれるのではと思っています。
高岸直樹さん、町田樹さん、お二人の振付をそれぞれ踊ってみて感じたことは?
上野
高岸先生には長年ずっと私の踊りを見て頂いて理解してもらっているから、それに応えなければいけないと感じます。幅広く豊かな経験から引き出されるもので、それを私が理解して表現しなければ意味がありませんので、作って頂いた作品を本当に大切に踊りたいと思っています。
町田さんの振付は2つのソロ《楽興の時》《献呈》で、表情がまったく違う作品です。《楽興の時》は少女のようであり、《献呈》は私の人生を語るような作品で、どちらも素敵です。感性が個性的で、フィギュアの世界にいた方が作り出す、動きの新鮮さが感じられます。
昨年は初めて振り付けて頂き楽しかったのですが、どこまで表現できていたか分かりません。動きの大きなフィギュアに対してバレエは表現が可能な部分が違い、音の粒を拾うことができると言っていたのが印象的でした。今年は、よりきちんと表現できればと思います。
町田樹に聞く! 《Pas de Trois Encore 2025》
《ノクターン19番》[2024年舞台映像上演]音楽:フレデリク・ショパン/振付:高岸直樹
町田樹
バレエとフィギュアスケートにおける、表現の違いのポイントとは何でしょう。
町田樹(以下、町田)
バレエとフィギュアに、動きのスケールの違いを感じます。
例えば、バレエの指先を震わす細やかで繊細な動きが「ミクロスケール」だとすると、フィギュアの4回転やトリプルアクセルなどのダイナミックな跳躍技は「マクロスケール」。その中間が「メゾスケール」で、フィギュアスケートは、メゾからマクロの動きでほぼ構成していきます。一息でよく演奏される管楽器、流れるような弦楽器といったフレーズの伸びを表現する楽器は、滑りとシンクロできるからフィギュアスケートの音楽によく使われています。
バレエは、つま先で立つトゥシューズのポワントワークのような非常に細かい足さばきといった「ミクロスケール」が醍醐味です。バレエのステップの「パ」は、ピアノの粒だった音をすくい上げることができます。
フィギュアスケートは音の線や持続性、バレエは音の粒を表現することに長けています。両方の世界を経験させてもらった私は、自分なりに考えているそれぞれの良さを、《パ・ドゥ・トロワ》の振付に活かしています。
《バラード1番》を、現在が踊るベストタイミングと思う理由は?
町田
あの曲を一人で背負う作品は、私が知る限り、バレエではあまり無いのではと思います。そのエネルギーに耐えうる身体、特に心肺機能の強さが必要です。もちろん未来の方がバレエは上達するでしょうが、体力的なフェーズを考えると、現在がベストだと思っています。
普段は大学教員の仕事をしているので(町田さんは國學院大学准教授として教えている)、いつでもダンサーとしてベストな身体とコンディションを維持できるわけではありません。ですから、私の場合は、バレエの舞台に立てる身体を改めて作り直すところから始めなければならず、今回は年明けから4ヶ月かけて肉体改造をしました。それでも私はネイティブのバレエダンサーではありませんから、完璧なバレエスタイルにはならないことは自覚しています。幼少期から踊り続けているダンサーやバレエの文化や歴史に敬意を表して埋まらない差は悟って受け入れながらも、高岸先生にこの10年間バレエを教わって授けて頂いた技術と身体で、この作品を作って踊ることを今回決めました。
高岸直樹に聞く! 《Pas de Trois Encore 2025》
《ノクターン 9-2 番》[2024年舞台映像上演] 音楽:フレデリク・ショパン/振付:町田樹
高岸直樹
上野水香さんと町田樹さんによる2020年〈上野の森バレエホリデイ〉の対談からスタートし、昨年舞台が実現して参加された高岸さんはこの公演をどのように見ていますか?
高岸直樹(以下、高岸)
元々は二人の対談の様子を温かくも心配しながらお父さんのように(笑)見ていたのですが、まさか出演に声が掛かると思っていなかったので最初はびっくりしました(笑)。
私は、足を引っ張らず肝心な時には引っ張り上げられるような存在でいたいと思っています。昨年の公演は素晴らしかったけれど、まだ自分の中でやり残したと思うことを今回の公演で出来ればと思っています。
町田樹さんの振付から受ける印象は?
高岸
音楽の知識はもちろんですが、感情の粒が凄く沢山詰まっている印象です。感情の粒、思考の粒、知識の粒…引き出しを開けると、ぎっしりと詰まったその豊かさが振付家としても魅力になっていると思います。まるで、実が詰まっている果物か海ぶどうのように(全員笑)、引き出しを開けてみると、粒がぎっしりと詰まっています。
芸術家というのは、自分との向き合い方で自分を大きくしていくことができる存在だと思っています。バレエは同じポーズの中にも、美しさや薫り、感情があります。そして、それをどのように滲み出せるかは、ダンサーがいかに向き合ってきたかによって膨らみも面白みも違ってきます。町田君も、水香さんも自分と厳しく向き合っていて育っていることを素晴らしく思います。
初めて観る公演に、観客が熱狂!
昨年の《パ・ド・トロワ》で、大いに沸いた客席の反応をどんな風に感じましたか?
町田
お客様の層も、通常のバレエ公演と違ったのではないかと思います。自身のフィギュアスケート選手時代の映像も流れましたが、バレエ、フィギュアのファンがうまく融合したユニークな公演だったと思います。
まさかあれほどの反応を頂けると思っていなかったので、嬉しい驚きでした。明るくてノリがとても良くて(笑)、正真正銘、演者と観客が共に作り上げた空間だったと感じます。フィギュアスケートの公演でよく見られるお客様の鑑賞スタイルにバレエファンの方々も一緒になってくださり、親密で熱気がある、祝祭的な空間になった盛り上がりを感じました。
上野
私たちはいつもと違って慣れていませんでしたが、とても熱くて、凄く喜んでくださり、本当に幸せに感じました。スケートリンクは客席から出演者まで距離があると思うのですが、東京文化会館の小ホールは舞台がすぐ目の前にあり、さらにスケートファンの方々からすると町田さんがアンコールの客席降りですぐそこにいるという(笑)、距離の近さも大興奮だったと思います。
高岸
町田君を見ている目で、きっとファンの方だろうなと分かりました(笑)。観客の皆様の声援が温かく、新鮮な舞台を見せてくれたという感謝のようなものが伝わってくるように感じました、
町田
「バレエとフィギュアに捧げる」というコンセプトで作品のタイトルにも付いていますが、こちらが意図しない予想を超えて、客席もクロスジャンルだったのではないかと思います。(上野・高岸「確かに!」と頷く)。
昨年のカーテンコール 《トロルドハウゲンの婚礼の日》
音楽:エドヴァルド・グリーグ/振付:高岸直樹・町田樹
上野水香・町田樹・高岸直樹
新作が生まれて振付を通したばかりの段階で、すでに凄い熱気が感じられた稽古場。3人のファミリー感の中に、お互いを尊重して自由なクリエイションを進める雰囲気が印象的でした。
フィナーレは、前回のアンコール曲をフルサイズの音楽で使用し、新たな振付を披露。盛り上がること間違いなし、昨年大人気だった演出も再びお楽しみに!
取材エピソードの編集後記は、こちら
公演ビジュアルの裏話!
<Information>
〈上野の森バレエホリデイ 2025〉特別企画
Pas de Trois Encore 2025
上野水香×町田樹×高岸直樹 《バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲 2》
公演日:2025年4月26日 16:00~17:10、4月27日 マチネ 11:00~12:10 /ソワレ 17:20~18:30
会場:東京文化会館 (上野) 小ホール
公式サイト
https://balletholiday.com/2025/2025pas-de-trois.html
ビジュアル撮影:Yuji Namba
衣装協力:Sportmax(上野水香)、ISAIA(町田樹・高岸直樹)
ヘアメイク:猪狩友介(Three PEACE)
舞台写真:Shoko Matsuhashi
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
【SNS】 STARRing MAGAZINE
ジャンルレス・エンタテインメントを愉しむ。
オフィシャルインスタグラムをフォロー!