オペラ歌手・脇園彩にインタビュー! 新たな境地で歌う、新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』ヒロインのロジーナ役
ロッシーニ・サウンドの魅力全開! キャストの声の魅力に酔いしれる、5月開幕の新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』。
ヒロインのロジーナ役を歌うのは、世界の“ロジーナ歌い”として絶賛され、グローバルに活躍するイタリア・ミラノ在住の脇園彩(わきぞの・あや)さん。人生経験、舞台経験を経て改めて再演の役に取り組む思い、ロッシーニの宇宙的に壮大な音楽、歌手としての使命など、脇園さんの広い視点から語るインタビューとなった。内容を前編・後編で送る。
ロジーナ役に呼ばれる幸せ
ロジーナ役は、オペラ歌手の脇園さんにとってどんな役ですか?
キャリアの最初から、私を導いてくれたような役です。まだ研修所時代のミラノ・スカラ座アカデミーでも、その後に憧れだったロッシーニ・オペラ・フェスティバルでもロジーナ役を歌わせて頂きました。漠然とここで歌いたい、こういう風になりたいといった夢を現実に叶えてくれた役だと、いま振り返ってみて思います。節目のタイミングで、「この方向だよ」と役に導いてもらった気がします。
ロジーナは若くて活気があってポジティブな自信を持ったキャラクターなので、キャリアを積む頃にはぴったりの役。最近の私は、技巧的にもより複雑なロッシーニのオペラ・セリアを歌い出しています。そういう意味では、そろそろこの役は卒業の時期が近いかもと以前から思い始めていましたが、ロジーナ役が私の方に来てくれるんです(笑)。
オファーを頂けるということは、私が選ぶというよりも、役が向こうからきてくれるものだと思っています。歌いたいと思っても全く来ない役もありますし、やってみたかったと思っていた役がふいに飛び込んできたりすることもあります。
そう考えると、役を頂くというのは巡り合わせで、今この役を歌う意味があるのだと考えています。だから、ロジーナ役がまだ私を選んでくれる、それは驚きでもあり、とても嬉しいことです。
経験を重ねて歌うロジーナ役
新国立劇場オペラで喝采を浴びた、人気プロダクションのヒロイン役で再登場。前回とお気持ちは違いますか?
前回2020年2月の公演は、世界がコロナ禍に入る直前でした。『セビリアの理髪師』の出演後には日本で初リサイタルも開催し、お客様が大変喜んでくださった年です。家族や友人、共演したイタリアの歌手たち、過去の繋がりの方々も観に来てくださり、これまで生きてきた全てが「音楽」という場所に凝縮された瞬間のように感じました。その直後、コロナ禍で劇場の上演が次々に止まり、友人のオペラ歌手が出演するプロダクションの開催も危ぶまれるようになり、その様子を心配で見ていたことが思い起こされます。
だから、2020年のロジーナが私にとって、ひとつの期間の集大成の区切りだったように感じます。ロックダウン後、劇場が少しずつ開き始めた時に企画して頂き、再び最初に歌ったのが、ロッシーニ・オペラ・フェスティバルで世界にストリーミングもされた、やはり『セビリアの理髪師』ロジーナ役でした。だから、私にとっては「ロジーナで閉じて、ロジーナで始まる」と、感慨深く思えました。
現在の私は、過去に歌った時とは自分のメンタリティも価値観も違い、人生における立ち位置も違います。若い頃は同じ目線で彼女を見ていて、役作りにおいて共感する部分が多くあった気がします。今は、その時期を抜けて、もっと愛おしく思春期にいるような彼女を外側から見ることができるようになった気がします。
昨年は、各地の歌劇場やオペラ・フェスティバルで、ロッシーニ作品の数々の新たな役を歌われました。経験を得て、歌唱の変化は?
2024年は、初めての役のデビューへの挑戦が続いた年で、走り続けるように歌い続けました。大変ではあったけれど自分の声が変わった感覚があり、声のコントロールが以前に増して出来ていることを感じます。ロジーナ役の歌唱は、自分の声をまだ知らない不安定さが魅力となって良い方向に出る場合もあるけれど、成熟してきた声でもう一度向き合って歌ったらどうなるかが自分でも楽しみです。
経験を重ねて感じるのは、テクニックはあくまで道具であって、目的になってはならないと思います。先輩のアーティストの方々にも、そのことをよく言われていました。これまでは、歌うためのテクニックを身につけることは凄く難しいことだと感じていました。若い頃は基本を構築することが必要なので、テクニック自体が目的になる期間というのは確かにあると思います。最近は、その期間を抜けたような感覚があります。
私たちの目的は、その先にある人間の心にどのようにタッチするか、その為に道具を使ってどのように音を調理してフレーズをどのように歌うか、何を表現したいのかということが大切です。
道具であるテクニックを超えて、もっとシンプルに、自分だからこそ今回はどのように新しく役を作っていけるだろうかと、自分自身も楽しみにしています。
魔法のような音楽
宇宙的な視点で世界を変えるロッシーニのオペラ!
作品の中で、一番好きな曲は?
『セビリアの理髪師』は、本当にどの曲も素晴らしく、次から次へと名曲が登場します。だからこそ、世界中で上演される頻度が高いオペラなのも、本当に納得ができます。
一番好きなのは、一幕フィナーレの重唱です。本当に生命力があって、心躍らされます。いわゆるロッシーニ・クレッシェンドで、人数も増えていき、だんだんと盛り上がりを見せます。音楽技法的にはテンポが速くなり、音量が大きくなり、最大の瞬間を迎えますが、私は宇宙的で壮大なエネルギーを感じるんです。生命力というと強くて重いものの方向になりがちなところを、ロッシーニの音楽はそのエネルギーが決して重くならず軽やかです。彼がとても高い視点から見ているように感じ、まるで日常生活の閉塞感を魔法のように、サッっと一瞬で取り払ってくれるようです。是非、劇場で感じていただけたらと思います!
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脇園彩さんが、共演者や新国立劇場出演の思いについて語る!
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<Information>
ジョアキーノ・ロッシーニ
『セビリアの理髪師』
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
会場:新国立劇場 オペラパレス
公演期間:2025年5月25日~6月3日
指揮:コッラード・ロヴァーリス
演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガー
美術・衣裳:ハイドルン・シュメルツァー
キャスト:
ローレンス・ブラウンリー
脇園 彩
ジュリオ・マストロトータロ
ロベルト・デ・カンディア
妻屋秀和
加納悦子
高橋正尚
ほか
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ilbarbieredisiviglia/
(後編記事) 近日公開!
メゾ・ソプラノ歌手 脇園彩 歌手としての使命―世界は美しいことを伝えたい
取材エピソードの編集後記は、こちら
舞台写真 新国立劇場『セビリアの理髪師』より
撮影:寺司正彦
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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